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ドラガン・ストイコビッチ 「もっと楽しいサッカーが見たくないか?」 【連載第2回】 

text by

中西哲生

中西哲生Tetsuo Nakanishi

PROFILE

photograph byTadayuki Minamoto

posted2009/04/02 10:02

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好きなサッカーチームを聞かれて、マンチェスター・ユナイテッド(マンU)を「現代サッカーに求められるすべての要素を兼ね備えている」と絶賛するピクシー監督。
世界を知り、選手としても監督としても日本サッカーを知りつくす。
現在、Jリーグを語るに最もふさわしい人物と言えるだろう。
かつてともにプレーした中西哲生が、ピクシーの本音に迫った。

最優先課題はハーモニーのあるチームを作ることだった。

―― 昨年、グランパスの監督に就任した時、チームのために何から着手しなければならないと思いましたか?

「最も大きな目標にしたのは、チームが組織的にプレーできるようにすることだった。結果ではなく、まず組織。私はグランパスをよくオーガナイズされたチームにしたかったし、選手同士がいいコミュニケーションをとれるチームにしたかったから」

―― ハーモニーですね。

ドラガン・ストイコビッチ

「そう。私はチームが毎試合、いい動きをする光景を見たかったんだ。それは戦術が機能しているということを意味する。そのためには、どうやってコンビネーションを作りあげるのか、どうやってクロスをあげるのか、最初にボールを取りに行くのは誰か、次に行くのは誰か、あらゆることを説明する必要があった。だから私は、目標を達成するには時間がかかるということがわかっていたし、毎日毎日少しずつ課題に取り組んでいかなければならないということもわかっていた。次の日になったら、いきなり奇跡が起きているというようなことはないわけだからね。
 

 ただチームに修正を加えるための時間は十分にあった。だから、私はまず選手たちに『ゾーン(ディフェンス)の4バックでいきたい』と断言したんだ。そしてなぜゾーンと呼ぶのか、ゾーンでは誰がどのように責任を受け持つのか、優先順位はどうやって決めるのか、こういったポイントを一つ一つすべて説明していった。それからピッチに出て教えたとおりのことを練習し、ドレッシングルームに戻っても、あらためて同じことを説明した。つまり自分が言ったことと、実際にやることが違うというような状況が絶対に起きないようにしたんだ。その瞬間から、選手が私のことを信頼し始めたのが分かったよ。『ああ、監督はこう言っていたから実際にもこうするんだな』というようにね。たとえばコンビネーションからゴールが決まったときにも、選手達は『ああ、監督が言ったようにやってみたら得点が決まった』と感じたはずだ。自分にとっての最優先課題はハーモニーのあるチームを作ることだった。実際、今のグランパスにはハーモニーがあるだろう?」

―― 日本サッカーには足りない部分ですね。

「それを実現するには、リーダーが必要なのかもしれない。強いメンタリティを、ポジティブな形で持つようなだれかが」

―― リーダーは自分が果たすべき役割を把握していなければいけない。

「もちろん。リーダーは常に目的地へ着くためのハイウェイ(高速道路=最短距離)を知ってなければいけない。一般道ではダメなんだ(笑)。たしかに一般道でも目的地には着けるかもしれないが、ハイウェイを使えばもっと早く目的地に着ける。先に着いて相手を待っていることもできる。選択の余地があるのなら、ハイウェイを使うべきなんだ」

名古屋は美しく強いサッカーをやる。

―― では、どうやってハイウェイに乗ればいいのですか?

「それにはフットボール・インテリジェンス、つまりサッカーについての知識、経験といったような内面的な要素が必要だ。自分はサッカー選手を20年もやってきたわけだからね。その経験から私がやろうとしているのは、メンタリティや知識といった要素を組み合わせて、パズルを作りあげることだ。多くのピースが積み重なって、大きな一枚の絵、つまりビジョンができあがる。そして私は最初から美しい絵を描こうとしてきた」

ドラガン・ストイコビッチ

―― 常々、美しいサッカー、攻撃的サッカーをすることが目標だと言っていました。

「そう。それは、グランパスに来た最初の日に言った。『名古屋は美しく強いサッカーをやる』とね。これが私のターゲットであると。あるいは負けることもあるかもしれない。しかし、それでもいい。自分たちはとにかくいいサッカーをする。そして相手のチームを苦しめる。美しいサッカーをして、名古屋を倒しにくいチームにしようと思ったんだ」

―― 日本人にはそういう美しいサッカーを実現できる能力があると思いますか?

「もちろん。どんな偉大な選手だって所詮は同じ人間なんだよ。日本人にできない理由なんてない。難しいかもしれないが、導いてくれる人間さえいれば、不可能なことなど何もないんだ。日本人はいいテクニックを持っているし、スピードも持っている」

 

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