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フィギュアGPファイナル 「交錯した4つの運命」 ~五輪代表の座を巡る死闘~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byMichi Ishijima/Atsushi Hashimoto
posted2009/12/15 10:30
五輪に向けて着実なステップを踏んだ両者の飛躍に期待する。
グランプリファイナルは、高橋本人には満足の行く終わり方ではなかった。だが、ショートが完成に近づいたこと、スピンやステップに切れが出てきたのは収穫である。不出来だったフリーでも総構成点はライサチェクに次いで2番目のスコア。ポテンシャルの高さをあらためて示し、本格的な復活も近いことを予感させた。
織田もまた、納得の行く演技ではなかったにせよ、成長の跡は見られた。これまで、演技中に混乱してしまって同じ要素を2つ繰り返す規定違反も珍しくなく、ここ一番でのプレッシャーに決して強いとは言えなかった。そうした過去を考えれば、極度の緊張の中でミスを小さなものにとどめ、崩れなかったのは今後につながる。
一つのミスも許されない、独特の緊張感に包まれる。
いかに立て直すか。安藤美姫と鈴木明子にとって、ファイナルでの課題は、まずはそこにあった。
安藤は1カ月前のNHK杯のショートで演技に気持ちが入らず、「人生最悪の演技」と語っている。鈴木もまた、優勝の中国大会に続く2戦目のスケートカナダで、緊張からジャンプの回転不足などのミスが重なった。
だから、二人は口をそろえて言った。
「五輪代表よりもまず、自分の満足の行く演技をしたい」(安藤)
「練習でしてきたことを出すことをまず目標にします」(鈴木)
こうして臨んだ中、安藤はショートで1位を獲得する。ポイントは冒頭の連続ジャンプにあった。予定していたのは2つの3回転ジャンプだったが、最初のジャンプで回りすぎたことから、2つ目を2回転に抑えた。その機転によってリスクを回避し、好結果をもたらしたのだ。
フリーではスタミナの問題から後半、スピード感がなくなる面はあったが、まずは無難にまとめた。その結果、総合2位に入り、五輪内定を決めた。
「練習のほうがスピードもあったし、まだまだ試合で出し切れていません。体力がまだ不足しているので、もっとつけないと」
反省を口にしながらも、こう語った。
「今までのグランプリの2試合よりも、気持ちよく滑ることができたかなと思います」
何よりも、磨いてきた表現面での点数が高く、ジャッジに好印象を与えることにも成功した。