NumberEYESBACK NUMBER

原点にこだわって復活した安藤美姫。 

text by

折山淑美

折山淑美Toshimi Oriyama

PROFILE

photograph by

posted2006/11/23 00:00

 「新しいステップは上半身も使うし、エッジの使い方も難しくて自分にとってはハードだけど……。今年は苦手なステップを克服して、高橋大輔選手みたいに、大きな拍手をもらえるようになりたいですね」

 10月27日午前、SPの練習で入念に繰り返していたステップについて質問されてこう答える安藤の表情は、どこか楽しげにさえ見えた。

 その夜、激しく情熱的に舞う安藤のストレートステップには、客席から大きな拍手が沸いた。グランプリシリーズ開幕戦のスケートアメリカを見に来た観客は、新生・安藤美姫の試みを高く評価したのだ。

 昨季の安藤はジャンプの失敗に苦しんだ。今季は自分のジャンプを取り戻そうと、子供の頃に指導を受けた門奈裕子コーチの下へ戻った。そこで4回転を封印。以前得意にしていた3回転+3回転ジャンプを完璧に決めることを今季の目標にし、体も絞り込んだ。さらに、トリノ五輪直前に荒川静香を指導しそのレベルを上げた振り付け師のニコライ・モロゾフ氏に師事、スピンやステップなどのレベルアップにも取り組んだ。

 3回のジャンプをほぼ完璧に決めたSP。安藤はプログラムコンポーネンツでも5種類中4つで7点台を出し、66.74の自己最高得点で浅田真央に次ぐ2位につけた。そして翌日のフリーでは、3度のコンビネーションジャンプを含む7種類のジャンプをきれいに決め、またもや自己最高の125.85点を獲得。合計ではトリノの荒川の得点を上回る192.59の高得点を獲得してシニアグランプリ初優勝を達成した。

 「一昨年までは最初の3回転+3回転が決まったら『もう大丈夫』という自信が持てたんですけど、今季はまだ3+3が決まったからといって残りのジャンプをミスなくできるかというとそうじゃないし……。最後のダブルアクセルを下りてやっと気持ちがほぐれたって感じです」

 安藤はそういうものの、見ている側にすればすべてのジャンプに4回転の呪縛から逃れた余裕が感じられた。そしてその解放感こそが、ステップやスピン、基本的なスケーティングなどの技術向上に取り組む集中力も生み出したのだろうと思えた。

 「私がトリノ五輪の代表に選ばれたことに不満を持っている人がいたことはわかっています。それに、足の骨折や肉離れで練習に集中できず、ハードトレーニングを積めないままに五輪へ臨んだことも反省しています。だから今年は、その人たちの考えを覆すような演技をしたいと思っていました」

 精神的に追い詰められていた昨季、安藤は辛い思いばかりで自分の納得いく演技がまったくできなかった。だが今季は気持ちも変わってきた。

 「去年は自分がマイナスなことしか考えられず、『私って人間的にもどうなの』って思うくらい落ち込んでました。でも今年は周りのことを素直に受け入れられるようになって」

 精神的にはそれほど強くなったとは思えないが、自分から積極的に練習するようになったことが昨季までとは大きく違う、と言って微笑む。

 「優勝できてホッとしたけど、フリーの最後は体が持たなくてスピードが落ちたし、ステップでも躓いたから。終わって最初に頭に浮かんだのは、『もっと練習しなければ』っていうことでしたね」

 久々の勝利にも、すでに次を見据えている安藤。復活の理由は、スケーターとしての歩むべき道が、ハッキリと見えてきたからに他ならない。

ページトップ