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ミルコと桜庭が挑むシビアな復帰戦。 

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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posted2005/10/27 00:00

 ジョン・レノンの名曲と同じサブタイトルを掲げた『PRIDE.30 STARTING OVER』が、10月23日にさいたまスーパーアリーナで開催される。ミドル級グランプリやエメリヤーエンコ・ヒョードルを中心としたヘビー級戦線が落ち着いた現在、〈再スタート〉を意味するこの言葉は、たしかにPRIDEにとってふさわしいテーマといえる。

 ただ、明るい未来や希望を感じさせてくれるサブタイトルではあるが、その裏を読みとることを忘れてはいけない。勝てば未来は残され、負ければ浮上の可能性を失うかもしれない。つまり危機的状況におかれる選手たちにとっては、普段よりもシビアな大会となるわけだ。

 とりわけ、念願だったヘビー級タイトルマッチでヒョードルに完敗を喫したミルコ・クロコップとミドル級GPで限界説を唱えられた桜庭和志にとっては、重い意味をもつ一戦となる。

 まずミルコだが、対戦相手は昨年10月以来の再戦となるジョシュ・バーネット。前回はジョシュの左肩脱臼により、わずか46秒でミルコの不完全燃焼勝利に終わっている。アメリカの格闘技団体『UFC』や『パンクラス』で活躍したジョシュは『ヘビー級4強』の序列を崩すと目されているだけにミルコ復活の足掛りになる再戦となるのは明白である。

 ただ、心配なのはヒョードル戦からわずか2カ月、ミルコの受けた精神的ダメージだ。神経質な一面を持つミルコだけに切り替えがうまくいくのかと思うが、なにをかいわんや関係者によるとそれは杞憂にすぎないという。ボクシング界から転身した西島洋介を『チーム・クロコップ』に招き打撃技術をさらに高め、今大会でハリトーノフと対戦するチームメイトのファブリシオ・ヴェウドゥムに刺激を受けるなど、積極的に活動しているとのことで、来年開催予定のヘビー級GPでのヒョードルとの再戦に照準を絞った模様だ。冷静さと執念──この言葉が今のミルコにはよく似合っている。

 一方、桜庭はミドル級GP後にブラジルにある『シュートボクセ』へ修行に出向き、柔術やムエタイの技術を吸収。また懸案だった肉体改造に着手するなど精力的な様子がうかがえる。対戦相手は、かつて『UFC』で一時代を築いたケン・シャムロック。これは8月の『吉田秀彦vs.タンク・アボット』同様アメリカの視聴者を意識したカードであり、すでに41歳、盛りを過ぎてしまったシャムロックは“テクニカルな桜庭”にとって難しい相手ではない。

 だが、懸念されるのはミドル級GPでも敗因となった体重の問題である。今回は93kg未満のミドル級契約で行なわれる。常時ヘビー級で戦っていたシャムロックは減量してこの試合に臨むが、桜庭は現状維持。現在、桜庭の体重は92〜93kgあるというが、6月の時点で87kgだったものが筋肉でそこまで増えるのは考えづらく、増量したことにより逆に身体のキレを失っている可能性さえある。“パワーの桜庭”で対峙できなければ、この試合の意味は希薄になってしまうだろう。

 それぞれの再スタート。そういえば'80年、5年振りに音楽活動を再開し『STARTING OVER』を含むアルバムを発表したジョン・レノンは直後、凶弾に倒れている。未来への希望を担った人気者の再スタートにおける悲劇ほど、人々を落胆させるものはない。背水の陣を敷いた両者には果たしてどんな未来が待ちうけているのだろうか。

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