天性の快速ドリブラーが、得点の才能も開花させた。
彼が数多の苦悩を経て身につけた動き出しの感覚は、
パスの名手が揃う代表でこそ、真の輝きが期待できる。
彼が数多の苦悩を経て身につけた動き出しの感覚は、
パスの名手が揃う代表でこそ、真の輝きが期待できる。
石川直宏は人をときめかせる異能を持っている。タッチライン際で彼が走り始めると、何かが起きそうな予感が漂う。彼にボールが渡る。観衆は息を呑む。沈黙が突如として歓声に取って代わり、ショーが開幕する。ギリシャ神話に登場する伝説の天馬ペガサスの如く、跳ねるように疾走するフォームは理屈抜きに美しい。果敢なドリブルでサイドを破る姿はサイドアタッカーの典型である。
しかし、今季の石川はいわゆるサイドアタッカーの枠を超え、ゴールマシンとしてもスタジアムに歓喜を与えている。
Jリーグ10年目にして開花したゴール・ゲッターの才能。
今シーズン開幕は故障で出遅れながら、9節大宮アルディージャ戦のハットトリックなどを含め、13節終了段階のリーグ戦で日本人選手最多の6得点を記録。ナビスコカップでも、決勝トーナメント進出を賭けた清水エスパルス戦の決勝点など2得点を決め、ゴール量産態勢に入っている。Jリーグ10年目でシーズン5得点が最高だっただけに、この数字は特筆に値する。
「ゴールを取れる位置に顔を出す、それは心がけています」と説明する石川はまさに神出鬼没。昨季までは定位置の右サイドにいることが多かったが、今季は右かと思えば左、時にはど真ん中を駆け抜ける。
「ナビスコの清水戦のゴールもそうですが、一度右サイドに預けてからゴールを狙えるポジションを取っています。そこでリターンを受けてワントラップでDFをかわし、シュートを流し込みました。他にもFWがくさびになってその裏に飛び出す形や、左サイドから切り返してシュートなど、ゴールを狙える角度、場所に顔を出すことでプレーの幅は広がっています」
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photograph by Toshiya Kondo