聖地で数多くの白星を重ねてきたが、未だ夏の頂点には一度も届いていない。それは教え子たちの将来のために「勝利にこだわらない」からなのか――。(原題:[教育者か勝負師か]中井哲之(広陵)「初優勝への執念」)
中井哲之は教育者である。
毎年100人を優に超える部員を抱え、現チームはマネジャーを含めると総勢156人。大所帯のチームが、「一人一役全員主役」のスローガンの下にまとまる。これを実現させているのは、中井の教育者としてのカリスマ性に他ならない。教え子たちが卒業後も大学、プロで活躍することから、「勝利よりも人間教育に比重を置く」指導者のイメージが先行する。
一方で、2度のセンバツ優勝を誇り、甲子園での勝利数は春夏通算39勝。これだけ勝ってきて、還暦を過ぎた現在もグラウンドに立ち続ける人を「勝利にこだわらない」と評するのは失礼だろう。教育者・中井哲之の中にも、勝負師の側面はあるのではないか――。
ある意味誰よりも、”勝負”してると思うんです。
「そりゃあ、あるんじゃないですか」
JR新下関駅近くの居酒屋のカウンター席で、上本健太がさらりと言う。上本は、高校3年だった2007年に春夏連続で甲子園に出場。夏の決勝で佐賀北に逆転満塁弾を浴びて敗れた、あの世代である。広陵の悲願である夏の甲子園制覇を目前で逃したからこそ、中井の勝負にこだわる姿を垣間見たのでは。上本が続ける。
「高校3年春の中国大会で、決勝に行けなかったら大阪桐蔭と練習試合が組めるって話があって。中井先生に『どうするか』と聞かれて、選手で話し合ったんです」
当時の大阪桐蔭と言えば、超高校級スラッガーとして鳴らした中田翔(中日)を筆頭に、巨大戦力を誇った全国屈指のチーム。夏前の腕試しにはうってつけで、選手が対戦を熱望することを、中井は望んでいると踏んだ。
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photograph by Nanae Suzuki