牡馬顔負けのパワーあふれる走りで繰り広げた三冠馬オルフェーヴルとの壮絶なデッドヒート。3歳牝馬として初のJC勝利は、前年覇者の名牝、ブエナビスタの背中を知る男の意地の結晶だった。
三冠馬と三冠馬。牝と牡、鹿毛と栗毛、岩田康誠と池添謙一――。ともに帽色は桃、服色は黒、赤、黄。似て非なる460kgと458kgの鈍く重い衝突音は、11万人超の熱狂の渦中でも聞こえた気がした。
2012年11月25日、第32回ジャパンカップ。ジェンティルドンナと駆け抜けた143.1秒には、岩田の騎手人生が凝縮されているかのようだった。着順が確定した直後に、噛んでいた唇を開いて表現している。
「本当にすべてを出し尽くした結果」
その真骨頂が見てとれるのは、終盤の激闘よりもむしろ、スタートから1コーナーへの313mではないか。17頭立ての15番枠から内ラチ沿いへ。迷いなく、ほぼ一直線に切れ込んだ。岩田といえばイン強襲。ヴィクトワールピサを駆った'10年の皐月賞をはじめ、内から馬群を突き破るようにして頂点への道をこじ開けてきた。
どんなこだわりがあるのか。
「せこいでしょ? せこいんですよ。近回りするってのがね」
丸く目を見開き、少年のように笑う。17歳から14年半も主戦場とした園田競馬場は1周1051m、直線213m。タイトなコーナリングで腕を磨いた若き日々が「せこさ」を培ったのは容易に想像できる。
「そういうのもあるし、こっちに来て('06年にJRAへ移籍して)勉強になったこともあるし。有利っていうか『いかにロスのないようにするか』ってのは思ってます。リスクはありますよ。でも、安全パイではいきたくない。強い馬なら外を回っても勝てるっていうのはありますけど『いかに騙して直線まで行かすか』っていうのがね」
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photograph by Masakazu Takahashi(Studio Leaves)