Mではなく、Wなのだという。
今年の1月、千賀滉大はアクションを交えながら、こう説明した。
「ピッチャーのヒジの使い方を訊くと、ほとんどの人が『テイクバックのときには両方のヒジを上げて、Mの形を作れ』って言うじゃないですか。でもメジャーのピッチャーを見ると、そうなってないんですよ。Mじゃなくて、Wの形で上げてるんです」
天井からの糸で吊されたマリオネットの如く、テイクバックでは両方のヒジをMの形で上げるべきだという野球界の常識を疑ってかかり、Wの形で上げたほうが肩、ヒジには負担がかからないと千賀は主張していた。千賀はヒマさえあればメジャーのピッチャーの動画を見て、いろんなピッチャーのフォームを研究している。つまりは筋金入りの“野球オタク”なのだ。
右の軸足に体重を乗せない。右の踵でポンとリズムを作ってから、歩くリズムを意識して、力感なくスッと左足を上げる。左足を上げてからいったん三塁側を向くのは、身体の左側に体重を乗せるために左腰でラインを作り、スムーズに体重移動ができるようにバランスを取っているからだ。下半身主導でリリースのタイミングを作り、腰を横回転させながら、最後は背筋で投げる。これが千賀がプロの世界で作り上げた、オリジナルのフォームだ。
やがて懸垂を始めた千賀は、足をクロスさせたまま、バーの後ろ側へ頭を持って行く。自らの身体の特徴を知り尽くしているからこそ、この形の懸垂でなければ効果が薄いと理解している。どこまでも研究熱心で、納得したことは忠実にやろうとする。常にストイックで、向上心を持ち続ける千賀は、当たり前のようにエースの座に安住しているわけではない。
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