#989
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<絶対エースの自信> 千賀滉大「宣戦布告のストレート」

2019/11/06
第1戦の先発マウンドに登ったのは、日本シリーズを知り尽くしたエースだ。フォークを武器に持つ研究熱心な右腕がこだわったのはあくまでも真っ向勝負だった。(Number989号掲載)

 Mではなく、Wなのだという。

 今年の1月、千賀滉大はアクションを交えながら、こう説明した。

「ピッチャーのヒジの使い方を訊くと、ほとんどの人が『テイクバックのときには両方のヒジを上げて、Mの形を作れ』って言うじゃないですか。でもメジャーのピッチャーを見ると、そうなってないんですよ。Mじゃなくて、Wの形で上げてるんです」

 天井からの糸で吊されたマリオネットの如く、テイクバックでは両方のヒジをMの形で上げるべきだという野球界の常識を疑ってかかり、Wの形で上げたほうが肩、ヒジには負担がかからないと千賀は主張していた。千賀はヒマさえあればメジャーのピッチャーの動画を見て、いろんなピッチャーのフォームを研究している。つまりは筋金入りの“野球オタク”なのだ。

 右の軸足に体重を乗せない。右の踵でポンとリズムを作ってから、歩くリズムを意識して、力感なくスッと左足を上げる。左足を上げてからいったん三塁側を向くのは、身体の左側に体重を乗せるために左腰でラインを作り、スムーズに体重移動ができるようにバランスを取っているからだ。下半身主導でリリースのタイミングを作り、腰を横回転させながら、最後は背筋で投げる。これが千賀がプロの世界で作り上げた、オリジナルのフォームだ。

 やがて懸垂を始めた千賀は、足をクロスさせたまま、バーの後ろ側へ頭を持って行く。自らの身体の特徴を知り尽くしているからこそ、この形の懸垂でなければ効果が薄いと理解している。どこまでも研究熱心で、納得したことは忠実にやろうとする。常にストイックで、向上心を持ち続ける千賀は、当たり前のようにエースの座に安住しているわけではない。

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photograph by Hideki Sugiyama

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