急遽リザーブ入りした故障明けの快速ウイングは、途中出場の後半18分、襲いかかってくる相手を一瞬のスピードで振り切り、逆転のトライ。ここ一番での起用に応え、勝利を呼び込んだ。(Number987号)
試合開始直前、メンバーに変更があった。
23番、福岡堅樹。
都立国立高校から早稲田に進学し、15番をつけた旧知の記者と、緑のジャージの波が競技場に押し寄せてくるのを見下ろしながら、お互いの思いはシンクロした。
「これ、行けるね」
キックオフ48時間前の時点では、11番ウィリアム・トゥポウ、15番に山中亮平の布陣。アイルランドが繰り出すであろうキックへの対策として、サイズを大きくしてきたことがうかがえた。しかし、キックオフが近づいてきた段階で、トゥポウが左足太もも裏を痛め、状態が芳しくないという。
ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフはこれを好機とした。9月6日の南アフリカ戦で負傷した福岡の起用を決断する。状態の見極めは前日に終わっていた。福岡は2日間の流れをこう話す。
「100%ではありませんが、ゲームには出られる状態でした。メンバーに入るのが決まったのは当日ですが、昨日の段階から『用意をしておいてくれ』とは言われていました」
ジェイミーは、前日に行われたキャプテンズラン(試合前日の最終調整)での福岡を見て、ベンチメンバーに入れることを決めていたという。
これをどう読むか。48時間前の段階ではアイルランドに「福岡の出番はナシ」と思わせておき、ゲームタイムに“Fukuoka”が突如として現れる。これまで策を弄することがなかったジェイミーだが、規則の範疇でアイルランドに心理戦を仕掛けたのではないか。
ジェイミーは、福岡を切り札にして勝ちに行ったのだ。
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photograph by Atsushi Kondo