たとえば「馬券」。寺山修司は、単勝を買うのは「一口で言えば英雄主義」と断じながら、「競馬は、一頭のドラマではなくて、群衆のドラマ」と転じる。そして、「連複」や「連単」の思想は、馬と馬とのドラマを越えて「馬と神とのドラマを持っている」と言う。虫明亜呂無は血統に注目する。馬が種牡馬と牝馬からどんな遺伝因子を受け継いだのかは分からない。しかし、毛色や体質、気性など「見える属性を手がかりにして、潜在した属性をさぐりあてる。これが競馬」と言う。文学者とは、馬券を買うにも難しい思考過程を経るものだ、と思った。ご両所がこの対談を上梓した1年後の'70年から競馬取材を数年やった。雑談をかわしたお二人は、馬券の勝負師より馬に思いを寄せるロマン派だった。
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