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危険な旅をした理由は、「たぶん、それが冒険だから」。 ~『アフガニスタンを犬と歩く』~

2015/05/19

 多国籍軍の攻撃でタリバン政権が崩壊した直後、英国人の著者はアフガニスタンの中部山岳地帯を西から東へ横断する800kmもの徒歩旅行をした。2002年の冬、2週間前に誕生したばかりの新政権の治安当局は「高山は3mの雪、それに戦争。君は死ぬぞ。それだけは保障する」と言った。なぜ、そんな危険な旅を?「たぶん、それが冒険だから、というのが理由だろう」

 荒涼とした高原と山間に点在する電気もテレビもTシャツもない「多くの家で唯一の外国テクノロジーはカラシニコフ銃で、世界に通用する唯一のブランドはイスラム教」だけの集落。そんな極貧の寒村に着くたびに著者はイスラムの習慣に従いもてなしてくれるよう交渉して宿とする。一日の行程は30kmから45km。赤痢に苦しみ、雪山に埋まり、崖から落ち、タリバンに脅される。自分を語らず、抑えた筆致で淡々と進めるのは、16世紀にこの地を征服したムガール帝国初代皇帝バーブルの日記のひそみにならってのことらしい。この旅の道もバーブルが通った征服への道なのだ。出会う人々と会話し、また歩く。破壊され見捨てられた村々や遺跡、厳しい自然。また歩く。歩くごとにこの国の歴史と現在の絶望的なまでの苦難の姿が浮かび上がる。

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photograph by Sports Graphic Number

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