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<今季世界ランク3位>“サンショー”で衝撃の日本新! 三浦龍司が語った成長の実感…リラックスタイムは「ドライブで自然の中へ」

posted2025/07/17 17:00

 
<今季世界ランク3位>“サンショー”で衝撃の日本新! 三浦龍司が語った成長の実感…リラックスタイムは「ドライブで自然の中へ」<Number Web> photograph by Shinichiro Nagasawa

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太田涼(スポーツ報知)

太田涼(スポーツ報知)Ryo Ota

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Shinichiro Nagasawa

最も過酷なトラック種目と言われる「サンショー」のパイオニアは、東京世界陸上を控えても自然体だ。最高峰の舞台でいかに戦うのか? 練習外の時間はどう過ごすのか? 23歳のオンとオフに迫った。

「ひとりだけの時間、世界陸上決勝のイメージ」

 自然体でマイペース。オンの時間もオフの時間も、三浦龍司は変わらない。3000m障害のレースでは、五輪2大会連続入賞者らしく自分の走りを貫くことで国内では他者を寄せ付けない走りを見せ、「当たり前の積み重ねだけ」と飾らない笑顔で語る。

 そんな三浦のリフレッシュ法はなんだろうか。自室では「ほぼ寝るだけ」という23歳にオフの時間について話を聞くと、ドライブという答えが返ってきた。

 順大時代に運転免許を取得。時間があれば所属するSUBARUの愛車を自ら運転して、喧騒を離れた大自然へ身を置く。

「筑波山に車で行って、ロープウェーで登ったりしましたね。あとは霞ケ浦や房総半島の海へ。島根出身なので自然の中の方がリラックスできるんです。気持ちがこう、切り替わるというか」

 ひとりで物思いにふけったり、仲間と楽しんだり。マイペースな23歳にとって運転するのは大切な時間だ。

「車は空間自体が自分だけのものですし、自分のタイミングで何もかもができるっていうのが心地よいですね。疾走感も好きなので、長時間の運転も特に苦にはなりませんね」

 車内では音楽を流すが、最近のお供は日本の4人組バンド「the engy」の曲が多いという。さらに楽しみ方の幅を広げるためアクションカメラも購入した。

「車窓だったり、友達との遠出の様子を撮ったりしています。思い出になるし、自分で見返したりもできるので」

 スポーツ観戦全般も息抜きの時間だ。競技を限定するのではなく、球技から格闘技、F1などのカーレースまで幅広く見る。最近は「ボクシングが面白い。来年の井上尚弥と中谷潤人の対戦は楽しみです」と目を輝かせる。

 私生活で驚いたのは「1日3食自炊」しているということ。多くのトップアスリートは栄養士監修の元で提供される食事を中心にするが、三浦は完全自炊派だ。

「外食はほぼせず、スーパーで食材を買って、レシピの本を読みながら作ってます。もちろん手抜きもありますけど」

 トレーニングでの疲労感が高ければ、プラスアルファの食材も自ら考えて手に取る。「タンパク質を多めに摂ることを意識したりとか、季節ものだと免疫力も高いので……」とまるで栄養士のような一面も見せる。好きなフルーツ全般に加えて、焼き魚も積極的に食べるようになった。必要な栄養素はサプリメントよりも、食事で摂取する。

「面倒くさいですけど、ある意味普通かなって。少なくとも、特別なことではないと思ってます」

 順大時代から世界最高峰のダイヤモンド・リーグ(DL)を転戦してきたため、海外遠征への抵抗は「ほぼないですね」。今シーズンもDL第4戦ラバト(モロッコ)に出場。アフリカへの旅路もピリピリせず、平然としていたという。

「現地での滞在期間が比較的短いので、ストレスは感じませんね。英語での会話は毎回つまずいているな、と思うんですけど、ランナー同士、英語ネイティブじゃない者同士だと、知っている単語言い合ってるうちに、結局意思疎通できちゃうんですよね(笑)」

 レースでヨーロッパを中心に世界各地を訪れているが、観光はなし。「できれば色々見たいと思いますけど、走りに行ってるわけですから」と割り切っている。今行きたいのは「ロンドンやベルギー」。もちろんDLで戦うためだ。

 グラウンド内外でマイペースを貫けるのは、自分自身をきっちりコントロールしていることの表れでもある。

「確かに、感情の起伏もそんなに大きくないですしね。必要だと思うことを、十分だと感じるまでやるだけですから」

 大学時代からタッグを組む順大・長門俊介駅伝監督の組むメニューに対しても、社会人になってからは障害を設置した1000mのインターバル走や、ペース走後のカットダウン(600m+400m+200m)といったより実戦的な内容を要望。「最後の叩き合いや瞬発的な能力の向上に繋がっている」とスパートの強化に手応えを感じている。母校で定期的に計測する、最大酸素摂取量(VO2max)などの数値でも走力の向上は裏付けられているという。

 三浦の進化は世界陸上イヤーも止まらない。7月11日のDLモナコ大会では日本記録を一気に6秒48も更新する8分3秒43という衝撃的日本新をマーク。今季世界ランク3位、東京とパリの五輪優勝記録を上回ったばかりか、内容も圧巻だった。ほぼ最後方から徐々に順位を上げ、2位集団で迎えた残り1周から驚異のスパート。約70m先を独走していた五輪2連覇中のエルバカリ(モロッコ)をとらえ、残り80mでは先頭に立った。最後は差し返されたものの0秒25差の2位。磨いたスピードが世界レベルであることを証明し、7分台すらも視界にとらえたのだ。

 一方、得意の”後半型”スタイルに加えて新たな試みも胸の内に秘める。

「殻を破るというか、最初からいい位置でレースを進める攻めの走りも、ちょっと考えなきゃいけないと思っています」

 三浦の“後半型”サンショーのリスクは体格で上回る海外勢を前に置くと障害が見えにくいこと。障害がまったく視界に入らず、前の選手の体の動きから想像するだけのこともあるという。

「そこで神経をすり減らしたり、感覚と合わないまま跳んだりというのもある」

 序盤から先頭集団でレースを進めることで、障害での余裕度を高めつつ力を温存。最後はあのスパートで優勝争い――。そんな青写真を思い描いているのだ。

 3大会連続出場となる東京での世界陸上。入賞ランナー常連となった今の目標は変わらず「メダル」だ。

「決勝の舞台のイメージ? その時になってみないとわかりません。でも間違い無いのはサバイバルレースになること」

 ハイペースで実力者が押し切るのか、スローペースで熾烈なスパート合戦になるのか。そんな問いに不敵に笑った。

「怖気付かずに後先考えずに行く力っていうのも必要なのかなと思います。場合によっては意表をつくような走りが求められるかもしれない」

 世界陸上でどんな判断をするにせよ、それは三浦が必要と感じた自分だけのプロセス。その先にどんな景色が待っているのか、楽しみでならない。

三浦龍司が語る 「厚底シューズ」の利点

「厚底シューズ特有のバネ、推進力もあるので走りやすい靴だと感じています。足の疲労を感じにくいのも利点です」

 三浦のトレーニングを支える新たな相棒が7月に発売されたばかりのOnの「クラウドサーファー マックス」だ。前身に当たる「クラウドエクリプス」もトレーニングで使用していたことから、スムーズに履きこなすことができたという。

「見た目ほどの重量感もなく、むしろフィット感が増していますね」

 もうひとつ三浦がロードでの練習で愛用するのがOnのランニングシューズのラインナップの中でも核となる「クラウドサーファー 2」だ。

「クラウドサーファー 2はクロスカントリーなどの不整地でのトレーニングに、クラウドサーファー マックスは長い距離やある程度ペースアップしたい練習の時と、自分の中でその時の疲労度や足首の負担なども考慮しながら履き分けています」

 さらに、長くのんびり走る際には「クラウドモンスター ハイパー」を着用することもあるという。

 三浦は今春Onと契約。国立競技場で会見を開いて大きな注目を集めた。

「Onはファミリーというか、すごく温かくサポートしてくれる。そういう雰囲気があるから僕らもシューズへの意見をフィードバックしやすいし、アプローチが双方向にでる。そこが他メーカーと一番違うところかもしれません」

 そして契約を決断する背景には、レースで履くスパイクへの信頼はもちろん、シューズ全体の品質や技術力の高さ、ラインナップの豊富さもあったようだ。

「普段の練習で身につけるものが信頼できるというのは、アスリートにとってとても重要ですから」

 スパイクも含めて、三浦がシューズに求めるのは接地感だ。

「細かい地面の凹凸だったり、情報を感じられる感覚も大事にしています」

 足を守るクッション性だけでなく、足裏の繊細な感覚にも目をむける。その点でも、クラウドサーファー マックスは「全体で蹴り出していくような、点ではなく面で接地する感覚がある」という。

 カーボンプレート非搭載ながら、後半も反応良くペースを上げられると感じており、三浦にとっても使用頻度の高いシューズになりつつあるようだ。

 市民ランナーにとっても、厚底シューズはレースだけでなく、日々のトレーニングでも履く身近な存在となっている。三浦から市民ランナーに厚底シューズの使用法についてアドバイスをもらった。

「やはりクッション性があって、体にダメージを蓄積しにくいというのがトレーニングを継続させるためには大切です。クラウドサーファー マックスはそこにしっかりコミットしたシューズだと思うので、多くのランナーにおすすめできると思います」

 柔らかさを保ちつつ、ミッドフォームに搭載されたクラウドテックフェーズによって前への推進力も十分に担保されている。Onが新しく送り出したクラウドサーファー マックスは、三浦龍司のみならず、多くのランナーの足元をサポートしてくれそうだ。

三浦 龍司Ryuji Miura

2002年2月11日生、島根県出身。洛南高、順天堂大学を経て、SUBARU所属。3000m障害の日本記録(8分3秒43)保持者で、東京7位、パリ8位とトラック競技では日本人初となる五輪2大会連続入賞。2023年のブダペスト世界陸上でも6位に。