イチ流に触れてBACK NUMBER
イチロー、第2の野球人生へ。
現役28年の想いを込めた「金言」。
posted2019/12/31 20:00
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Kyodo News
2019年3月21日。その日はついにやってきた。
1カ月前。10カ月ぶりに現役復帰を許されたスプリングトレーニングではフリー打撃で柵越えを連発していた。右翼オンリーとも言えた本塁打の打球方向は中堅から左中間にも伸びるようになった。
飛距離アップは誰が見ても明らか。その上に45歳にして走攻守に於ける華麗な動きも健在。これまで球界にあった固定概念をことごとく覆してきた背番号51ならば、不可能も可能になるのではないか。本気で思った。
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ところが。
オープン戦が始まると今までには見たことのない光景が続いた。7打席で5三振を含む18打席連続無安打。打率は.080。打席内で首をかしげる姿が多くなった。
それでも、打撃感覚はたった1球で蘇る。イチローならば奇跡は起こる。そう信じ続けた。しかし……。
始まりがあれば終わりがあるのは世の常。3月20日、21日に行われた東京ドームでの開幕シリーズ後、彼は現役生活に別れを告げた。
周囲が衰えを指摘しだした頃。
筆者がイチロー番記者となったのは2012年から。彼が38歳のシーズンからだった。
前年、入団から10年続けてきたシーズン200安打が途切れ、周囲は衰えを指摘しだした。ヤンキース、マーリンズへと変えた所属先では第4の外野手扱い。過去に残した実績に関係なく、年齢だけでポジションは決められた。
だが、その彼から不平、不満を聞いたことは一度もなかった。それどころか、立場に関係なく常に変わらぬ準備を続ける姿にチームメイトや関係者はより尊敬の念を抱くようになった。