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井上尚弥相手でも、絶対に逃げない。
田口良一が「強いヤツ」を探す理由。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShigeki Yamamoto
posted2018/01/21 08:00
世界王者乱立の時代でも、2団体統一王者は日本で田口良一しかいない。見た目以上に豪胆なボクサーである。
井上尚弥との対戦を熱望し、負けたものの評価を上げた。
彼はいつも「強いヤツと戦いたい」と欲してきた。
もう5年近く前になる。日本ライトフライ級王座を獲得すると、早くも注目を集めていた井上尚弥との対戦を熱望した。下馬評は圧倒的に挑戦者の井上有利で、それも「KO間違いなし」との声が田口の耳にも届いていた。
結果は0-3判定負けに終わったとはいえ、怪物と真っ向から打ち合った田口の評価はグッと上がった。「井上に負けた男」ではなく、「井上と打ち合った男」として。現在、井上の無敗キャリアでKOできなかったのは2試合のみ。そのうちの1つが、田口戦である。
田口を踏み台にしてプロ6戦目で世界タイトルを獲得した井上から遅れること8カ月、田口は世界のベルトを腰に巻く。
「リスクもあるけど、強い相手に勝てば評価が上がる」
世界王者となっても「強いヤツと戦いたい」という思いは常に持ち続けてきた。
WBO同級王者田中恒成との統一戦は田中のケガによって実現しなかったものの、田口は落ち込むことなく標的をIBF王者メリンドに変えた。
「井上くんとの試合もそうですけど、逃げたとか絶対に思われたくない。それに“絶対に勝つ”と思ってリングに入っていますから。僕としては、プロのボクサーとしてまずお客さんに喜んでもらいたい。お客さんが何も思わないマッチメークより、気を引くマッチメークのほうがいいじゃないですか。
強い相手と戦って、盛り上がってもらうのが一番いい。負けるリスクもあるけど、勝てば評価が上がる。僕はそっちを考えます。
だから今回、メリンドと戦えたことは凄くよかったなって思うんです。八重樫さんが負けたのは僕もびっくりしました。でもその相手に僕が勝ったら、評価してもらえる。もしメリンドが王者じゃなかったとしても“戦いたい”と思える相手でした。あの(ファン・フランシスコ・)エストラーダとも戦っていますから。
もちろん怖さもありました。僕はいつも試合に向けたスパーリングにムラがあるので“本当に勝てんのか”って思ったこともあります。でも試合当日は絶対の自信を持って、リングに入りました。統一戦の雰囲気は、いつもとはちょっと違っていましたけど、経験を積んで緊張もしなくなりました。その意味でも成長できているのかなとは思います」