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<10年目の開幕レポート> イチロー 「ヴィンテージ'10の芳醇な味わい」
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byYukihito Taguchi
posted2010/04/20 10:30
超極上ワインの如き「2010年型イチロー」を堪能するためのヒントは、オープニング・ゲームの“作品番号1番”に潜んでいた。
メジャー10年目。
今年、目指す境地について、開幕直後のイチローはこんなふうに話していた。
「それを実際に表現できるかどうかは別問題として、イメージしていることはあるんです。それは、数字を残すことありきで、現段階では意識が数字にはないということ。それが、これまでとは明らかに違うところです」
イチローがメジャーでこだわり続けるシーズン200安打という数字。その数字と、イチローは9年間、対峙し続けた。そして過去の選手をすべて超えたイチローは、数字から解放された自分がどんな雰囲気を身に纏うことができるのか……そこに期待している。
「新しい僕のスタートでもあるなという感触は持ってます」
「去年のシーズンを終えて初めて、やっていれば結果がついてくるという心境になって、新しい僕のスタートでもあるなという感触は持ってますし、初めて力を抜けるんじゃないかという期待を持ってますけどね」
新しい僕――イチローが見定めたのは、達成感を味わいにくい目標であり、見る人にとってもわかりにくいテーマではないかと訊いてみたら、イチローはサラッとこう言った。
「だって僕、別に万人には向けてないですもん。だから、いいんですよ、それで(笑)」
要するに、人の記録を超えて自分とだけ向き合えるようになった今年、初めて力を抜くことができるかもしれないと、イチローは言うのだ。しかも彼は、「10年連続200安打という数字を敢えて口にすることはつまらない」とも言った。数字を追い掛けて、プレッシャーに苦しみながら辿り着くのではなく、数字から解放されて、楽しみながら野球に向き合えば、数字は後からついてくる――そんなふうに考えられるイチローを、彼は“新しい僕”と位置づけているのかもしれない。
「もちろん、数字はありきです。だって、それは人を納得させられる材料ですから。成績が伴っていないのに、『僕にはちょっとだけ余裕が出てきて、楽しめて、最高だった』と言ったって、『アホか、アイツ』になるだけでしょう。でも、それではダメなんです」