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クレメンスによせる期待 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2005/12/26 00:00

クレメンスによせる期待<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 先日行われたウィンターミーティングを前後して、各チームともに着々と選手補強を進めているようだ。しかしもうすぐクリスマスのためストーブリーグも一旦小休止。年明けに再び活発化するというのが例年のパターンだ。そんな中、ここまでで個人的に最も関心を寄せている1人のベテラン選手の動向について触れてみたい。

 ロジャー・クレメンス投手。今更説明不要なメジャー球界史上傑出の大投手だ。今季はアストロズでエースの1人として活躍し、自身6度目となるワールドシリーズ出場を果たした。個人的にも7度目の防御率タイトルを獲得し、世界王者にはなれなかったが、ほぼ最高のかたちでメジャー22年目を終えた。そんなクレメンスに対し、アストロズは年俸調停の申し入れの拒否を決定。クレメンスは自動的にFA選手となるとともに、同チームは来年5月1日まで同選手と契約できない。

 通常年俸調停の申し入れ拒否というのは、チームが保有権を持つ戦力外選手に対して行われるものだが、今回ばかりは全く違ったケース。もちろんアストロズにとってクレメンスは必要不可欠な先発投手なのだが、彼の破格な年俸がネックとなってしまった。クレメンスの今季年俸は1800万ドル(約21億6000万円)だったのだが、仮にアストロズが年俸調停を申し入れした場合、少なくとも2000万ドル(約24億円)以上の年俸を用意しなければならなくなるのだ。資金に限りのあるアストロズにとって選手1人のために払える額ではなく、今回の決定はまさに苦渋の選択だったはずだ。

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 元々クレメンスは2003年シーズン終了後に引退を表明。それを家族が住む地元ヒューストンであり、ヤンキース時代から兄弟のように仲の良かったアンディー・ペティット選手が移籍したこともあり、翻意してアストロズ入りを決めた。そしてこの2年間で残した成績は31勝12敗、防御率2.43と、“引退”という言葉がまるで似合わない驚異的なものだった。

 「このチームには最高の選手たちが揃っている。彼らがいたからこそ、自分はここまでやって来られたのだと思う」

 10月9日のブレーブスとのディビジョン・シリーズ第5戦、延長16回から中2日でマウンドに上がり、3回を1安打4奪三振の好投で勝利に導いたクレメンスが、しみじみと語っていたのを思い出す。クレッグ・ビジオ、ジェフ・バグウェル、ブラッド・オースマスらメジャーでも屈指のナイスガイなベテラン選手たちが、いつしか野球人生で頂点まで登り詰めたクレメンスのモチベーションになっていったようだ。

 そんなクレメンスが先日公の場にたち、興味ある発言をしているのだ。まだ来年現役をつづけるかどうかは決めていないと前置きしながらも、「ヒュートン、テキサス、ニューヨークとボストン。私はこれらの街が好きだし、これらのチームには尊敬できる偉大な選手たちがいる」と、4チームへの興味を明らかにした。その中に、何とアストロズの名前が入っているのだから実に面白い。

 「5月に戻ってきたとしても、最低でも3、4回はリハビリ登板をしなくてはならないから、復帰登板は6月か7月になるだろう。決して最高のシナリオではないだろう」

 本人が説明しているとおり、確かに5月1日まで契約できない状態では、アストロズ復帰はクレメンスにとってマイナス要素が多いのは確か。その一方で、アストロズは今年のドラフトでクレメンスの長男コビーを指名。そして彼を捕手に転向させることを決定しているのだ。もしクレメンスがアストロズに復帰すれば、リハビリ登板で本人も「楽しいだろう」と公言する親子バッテリーが実現する可能性が高いのだ。家族を大切にするクレメンスにとって最高の瞬間であることは間違いない。

 いずれにせよクレメンスは来年早々にも本人の意思を発表するらしい。一ファンとしては、どんなかたちになろうと現役を続行してくれるのを願うばかりだ。年齢を重ねた選手が現役を続けることは心身共に辛いのは重々承知しているが、クレメンスの投球から何一つ“衰え”を感じられないままマウンドを去るのだけは悲しすぎることだ。

 ただ日本のファンにとって朗報なのが、クレメンスが来年3月に行われるワールド・ベースボール・クラッシック(WBC)出場を熱望していることだ。これまでクレメンスは日米野球に参加しているが、シーズン終了から1ヶ月も過ぎては本来の投球からほど遠い状態だった。WBC出場はあくまで彼の状態次第だとしているが、出場した場合は日本の主力選手相手に投じる100%のクレメンスを見ることができるかもしれない。

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