オシムジャパン試合レビューBACK NUMBER
アジアカップ予選A組 VS. サウジアラビア
text by
木ノ原句望Kumi Kinohara
photograph byToshiya Kondo
posted2006/11/20 00:00
「インド戦より悪かった」。
日本がサウジアラビアに3−1で勝利を収めた11月15日のアジアカップ予選最終戦後の会見で、オシム日本代表監督はこう言った。
だが、指揮官の表情はどこか穏やかにも見え、その言葉を額面通りには受取ることはできない。今シーズンの締めくくりであり、オシム体制7戦目となった試合で、日本の選手はこれまでの試行錯誤の成果を示した。
9月のアウェーで1−0で敗れた試合では、日本は単調でどこかぎこちない攻めに終始した印象がある。
だがこの日は、選手が自身のポジションにこだわらずに前後左右に流れて攻めを組み立てていた。リスクを冒しながらもチーム全体でバランスを取ろうという動きや、相手を引き付けながら味方へスペースを作るサポートなど、チーム全体での動きが呼応していた。オシム体制としては最もスムースな連係を見せたと言ってもいいのではないだろうか。
そのポジティブな連鎖反応とでも言うべき一連の動きを促したのが、FW我那覇のプレーだった。
川崎フロンターレFWは、8月のトリニダード・トバゴ戦以来の先発ながら、同僚の中村憲剛が中盤にいたおかげか、これまでで一番心地よくプレーしているように見えた。身長182センチが前線でのくさび役を確実にこなしてくれるので、両サイドの加地と駒野も安心して攻め上がることができる。
サイドの動きが滑らかになれば、もともと攻撃参加が好きな闘莉王や今野も積極的に中盤に顔を出し、そこから前線や左右にフィードを送ることができる。おかげで、フィールドの高い位置から攻めのビルドアップができるようになった。前回ジェッダでの対戦で、どこか閉塞感のあった攻撃から進化した格好だ。
日本の2点目となった我那覇の得点は、そういうセンターバックの攻撃参加から生まれた。今野は、最終ラインからドリブルで右サイドを上がると、ペナルティボックス手前で中へ切れこんでファーサイドの我那覇へピンポイントのクロスを送った。これを我那覇がヘッドの素早い振りでゴールに叩き込んだ。
後半4分の3点目も、今野の仕掛けに周りが反応したパターンだった。
FC東京選手の鋭い縦パスに左サイドの駒野が走って中へ折り返すと、ファーサイドで我那覇がフリーで合わせた。あの場面、右サイドの加地が駒野のボールに、ボックスの中をニアに走りこんで相手マークを引き付けた動きも見逃せない。こういう動きこそが指揮官の求める「考えて走るサッカー」の形だろう。
加地に限らず、本来より中に絞り気味のポジションでプレーした三都主も、相手のマークを引き付ける役を担っていた。試合後の会見で、オシム監督はこれが「相手のよさを消す」ための策のひとつだったことを明かした。おかげで、サウジアラビアの攻撃の起点となるべきポジションは、守備に忙殺されることになった。監督采配に反応できる選手の動きがそこにあった。
試合開始後しばらくは、闘莉王が上がった後のスペースへのケアが十分ではない時間帯もあった。鋭い相手ならその部分をつかれて攻め込まれていた可能性もあったが、前半途中からボランチの鈴木がカバーに入り、試合中に修正ができていた。
だが、リードを2−0に広げた後、前半残りの時間帯の動きが停滞した。それが相手を試合に入ってこさせ、結果として前半33分のPKを与えるゴール前のドタバタにつながった。10月のガーナ戦に続いて最終ラインでの適応力の高さを見せていた今野がファウルを取られた。「日本の典型的なミス」とオシム監督が指摘するように、修正すべき部分だ。
また、試合終了直前のPKで4−1にするチャンスには、闘莉王が大きく蹴り上げてしまった。監督は「今後、誰をPKキッカーにしなくてよいかがわかってよかった」と冗談交じりに口にしたが、プレーと試合の質を下げる場面だったことは否めない。
冒頭の指揮官のコメントは、「これぐらいの出来で浮かれるな」という、選手や騒ぎたがるマスコミに釘を刺したものだろう。だが、その本心はまた、「選手のがんばりもあって、相手にチャンスらしいチャンスを与えなかった」という台詞に垣間見ることができるのではないか。
この試合の勝利で日本はアジアカップ予選A組を首位通過した。サウジアラビアとは5勝1敗で勝ち点15で並んだが、日本がサウジアラビアとの対戦成績で相手を上回った結果だ。来年2月からは7月の本大会へ向けての準備が始まる。この日の試合は、それを楽しみに思わせるものだった。