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正念場を迎えた10年に1度の逸材。 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byBongarts/Getty Images/AFLO

posted2009/02/10 00:00

正念場を迎えた10年に1度の逸材。<Number Web> photograph by Bongarts/Getty Images/AFLO

 ありきたりに分析すれば、バイエルンというスーパーチームに所属するゆえの激烈なプレッシャーに耐えられないから、となるところだが、これはちょっと違うと思う。恐らく、レンジングはあまりに長く“カーンの控え”を務めてきたことで貴重な実戦経験を積む時間が不足しているのだ。アドラーがレバークーゼンで実力を伸ばしている最中、レンジングはひたすらカーンの引退日を待つしかなかった。昨季リーグ 33試合に出場したアドラーと、10試合だけのレンジング。3部リーグのアマチュアチームに出ることもなく、カーンの後釜として徐々に“慣らし運転”していても、クルマと同じで連続フルパワーでなければ本来の性能は発揮されないというものだ。

 バイエルンの控えGKは、かつてアドラーにポジションを奪われたブットである。レンジングより10歳年上のブットのリーグ出場回数は324と圧倒的な経験を誇る。これが高く買われ、レンジングよりプレッシャーに強いと言われている。ライバルはチーム内にもいるのだ。

 ここまでレンジングはリーグ全試合に出場、KIKCER誌の平均評価は「不満足」に当たる3.53だ。アドラーはといえば、平均を上回る2.90。拮抗するのはエンケ(2.56)、得点王イビセビッチ(2.53)、リベリー(2.67)といった代表クラスの選手である。評価は移籍金にも反映されている。現時点でのレンジングの評価額は450万ユーロ(約5億円)、アドラーは1100万ユーロ(約13億円)。随分と差がついたものだ。

 では2人の勝負、これで決着したということなのだろうか。違う。物語はまだ始まったばかりである。レンジングはリーグ、カップ、そしてチャンピオンズリーグという大舞台を次々に踏んで成長する機会を増やしている。アドラーの国際試合は代表マッチが柱で、クラブレベルでは今後もそう期待できそうにない。つまり成功への扉は両者に均等に開かれているのである。

 2人の直接対決を見るには、5月12日の第32節まで待たなければいけないところだったが、3月初旬のDFBカップ準々決勝でバイエルンとレバークーゼンが当たることになった。レバークーゼンのラバディア監督は元バイエルンの選手でリーグ優勝経験がある。バイエルンからは先日、「10年に一度の天才」と謳われたMFトニ・クロスがレバークーゼンにレンタル移籍した。クロスはバイエルンでわずか7試合290分出場しただけで、飛躍へのステップとして新天地を選んだ。キースリング、ヘルメスの代表FWが在籍するレバークーゼンだけに、クロスの正確なクロスボールは強力な武器となるはずだ。

 元チームメイト、元リーグ優勝経験の相手チーム監督、相手チームの元GK、そして相手GK。レンジングには戦う相手が何人もいる。そういう状況になったのも、彼が経験を積んだからである。レンジングよ、頑張れ!

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