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カーンと警鐘。 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byBongarts/Getty Images/AFLO

posted2008/09/10 00:00

カーンと警鐘。<Number Web> photograph by Bongarts/Getty Images/AFLO

 チャンピオンズリーグ本大会出場を賭けた予備戦で、シャルケがアトレチコに惨敗した。ホームでの初戦は1−0の勝利、内容的にも相手を上回った。しかし、頑張れる限度もそこまでだった。

 2週間後のアウェー戦──。北京五輪でアルゼンチン代表メンバーとして優勝を飾り、この試合でアトレチコに復帰したアグエロの前にシャルケは翻弄され続け、1得点2アシストを許してしまう。終わってみれば0−4。実際はスコア以上の実力差だった。

 06年W杯と08年ユーロで辛酸を舐めたポルトガル人MFシモンは、ドイツ勢に対しては誰よりも恨み骨髄である。またアルゼンチン人MFマキシ・ロドリゲスもドイツとの準々決勝でPK戦直後に殴り合いを演じて、これまた対抗心が非常に強い。こういった強烈な“反ドイツ派”が背後にいたことで、アグエロもフォルランも存分に動けたわけであろう。

 それにしても昨季UEFAカップ決勝でのバイエルンといい、今回のシャルケといい、絶対に負けられない試合で完敗したのは本当にいただけない。低迷するドイツのクラブサッカーに恥の上塗りをしたようなものだ。

 CL出場を至上命令にしていたシャルケは、アトレチコ戦で臨時ボーナス3憶2000万円を用意していた。しかし敗戦によりすべてがパー。クラブの予算計画もそのため大幅に狂ってしまった。減収額は23億3000万円にのぼる。この損金を補填するには「最低でもUEFAカップ準決勝に進出」しなければならない。それでようやく19億円を補える程度である。

 これまで何度か現地の番記者と「なぜ、シャルケは勝てないか?」をテーマに話したことがあるが、記者は「どうにも変わらない地域特性が最大の障害」であると胸を張って答えている(自慢してる場合か!)。

 つまりファンもクラブも、目先の勝利、隣町に対する優越感、マネーの話題で盛り上がればそれでいいのである。労働者が多く住む町ゆえ、生活のパターンは1週間単位で完結する。古い1週間が終われば、新しい1週間が始まる。そういうことで、長期にわたるチーム作りが体質的に苦手というわけなのだ。ここが長い歴史と高度な自治意識に馴染んだバイエルンやハンブルク、ブレーメンと決定的に違う点である。と、ここまでは机上の理論。本当の敵は内部に潜んでいる。

 何よりもフロントの人事の無策ぶりにもっと批判を集中させなければならない。03年から今季まで監督が5人も変わっているようでは、戦術は一貫性を失い、選手も対応できないではないか。そうなると「じゃあ、新しい選手をいれようか」となり、次々と甘い言葉で誘い水をかけるものの、見事に同じ失敗を繰り返す。この面でもフロントの眼は節穴なのだ。昨季入団した選手はいずれも役立たずばかり。ゼ・ロベルト(年俸1億9000万円)=今季出場ゼロ。グロスミュレル(年俸2億2000万円)=出場2回。サンチェス(年俸2億3000万円)=出場ゼロ。3人ともノーゴール。まともな企業だったら無駄な買い物をしたとして、経営者の責任問題につながる。

 しかし新スタジアム完成以来、ほとんどすべての試合が満員の客であふれ、2部陥落の危険性もない現状では、現経営陣にこれ以上やってほしいと要望しても、「何か問題点がありますか?」と反対に問い返されてしまうのが関の山。重い腰は海の向こうにだってある。現GMと理事会が、未来のビジョンがどうのといった話が苦手なのは近代経営に疎い証拠ではなかろうか。

 閑話休題。

 今月2日、バイエルンのオリバー・カーンが引退試合を行ない、現役生活に別れを告げた。39歳のカーンの実績については改めて紹介するまでもないが、彼のいちばんの特徴とは、なによりその強靭な精神力であり、また頭脳の優秀さである。大学では通信教育ながら経済学専攻で優秀な成績を収めたというし、趣味の株式投資でも深い知識に支えられ、著名な投資家としての顔を持つ。

 引退後の第二の生活についてカーンは、「何もしないのなんて想像できない」と語っていて、これから様々なアクションを起こす予定だ。手始めに決めたのがTV局のサッカー解説者。その他、アジアで未来のGKを発掘する手伝いをしたり、子供たちのモチベーションを上げるプロジェクトに関わることにもなっている。

 数多くの栄冠を勝ち取ったカーンはスター気取りをしない選手だった。同僚のスター気分も許さなかった。しかし01年CL優勝と翌年のW杯で準優勝を果たしたことで気が緩み、若い女性との浮気、夫人との不仲、パフォーマンスとモチベーションの低下などを味わった。それでも自己努力でネガティブの連鎖を断ち切り、悪循環から抜け出すことに成功。現役最後の4年間を充実させた。

 そこで提案だが、思い切ってカーンをシャルケのGMに据えてみてはどうだろうか? 彼だったらどんなわがままな選手、物分かりの悪いフロント陣でも圧倒できるカリスマ性を兼ね備えているし、甘いクラブ体質を劇的に変えられる人材だ。

 ブンデスリーガは第3節を終わって、シャルケが首位に立っている。しかし不思議なことに、なぜか素直に喜べないのである。それって、「シャルケだから」なのだ。国内では強豪でも欧州の舞台に出れば弱小では、ドイツのレベルもお里が知れるというものだ。ここは強力なカンフル剤が欲しい。

 首位のチームだけど、あえて警鐘を鳴らしていいのだよ。カーン……とね。

#オリバー・カーン
#シャルケ

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