試合開始から惜しみなくスプリントを繰り返し、最前線から肉食獣のようにプレスをかけ続けた。クロアチア戦では待望のゴールを挙げるも満足はない。今はストライカーとしての進化を己に誓っている。
バングラデシュ人の洗濯屋が感心していた。
「日本、いいチームだ。特にほら、スキンヘッドのあのフォワード、ずっと走ってる」
スコティッシュメイルのマクゴーバン記者はうなずいた。
「今日もやってたな、ダイゼン。私はもう驚かないが」
ひとりの男が、一風変わったやり方で、黄金色のスタジアムに集う観衆を沸かせていた。
疾走の前田大然。カタールの地で話題となった。
スプリント数でFIFAを驚かせた。出場したドイツ戦、スペイン戦、クロアチア戦の3試合でのスプリント数はチーム1だった。この数字は、他のどんなフォワードも達成していない。
今大会でFIFA分析班のメンバーだった元日本代表監督、アルベルト・ザッケローニはうなる。
「チームの最前線であの献身。そりゃ、チームは助かる」
前田がワールドカップなど夢にも描いていなかった昨春、走ることの意義についてこんなことを語っていた。
「スピードがある選手というのは、どこにいっても気に入られると思っています。僕はそのスピードをどんどん出していかないと。今よりも、もっと出したい。圧倒的なスピードを見せる」
腹をすかせた肉食動物の視線で相手を追いかけ回した。2度追い、3度追いを繰り返す。ドイツのセンターバックが、スペインのゴールキーパーが、あわれにも次々と餌食となった。
英デイリー・レコード紙は、獰猛なプレスをrelentless approachと表現した。無慈悲なプレス。走る日本人の話題はカタールで試合を放送したbeINでも取り扱われ、前田のことを知らなかった人々の視線を釘付けにした。
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photograph by Naoyoshi Sueishi