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<最強女流の胸のうち>里見香奈「腹立たしいけど、好きだから」

2020/09/11
16歳の初戴冠から女流棋界を牽引してきた里見香奈。
16歳での初戴冠以降、タイトル獲得は実に41期。しかし、その道のりは平坦ではなかった。奨励会での苦悩、好敵手の登場。徐々に変化を遂げつつある、第一人者の現在地とは。

 人呼んで“出雲のイナズマ”。

 女流棋界のトップ戦線に食い込み始めた中学3年生のころから、里見香奈はそう呼ばれるようになった。島根県出雲市出身。詰将棋で培われた群を抜く終盤力。同じく終盤を得意とし、“終盤の魔術師”“イナズマ流”と恐れられた、師匠の森けい二九段にあやかって名付けられた。

「当時は中学生だったこともあって初めはあんまり……。イヤではないですよ、ただどちらでもない感じでした。可愛いよりは格好いい方が良かったですけど、なんでこんな……っていう(笑)。でもキャッチフレーズって誰でもつけてもらえるわけではないですから、今はありがたく思っています」

12年間、無冠になることなく。

 2008年秋、16歳のときに大山名人杯倉敷藤花戦で初タイトルを獲得して、一躍スターダムにのし上がった。制服姿で活躍する高校2年生を一般のメディアも取り上げる熱狂ぶり。翌年、「高校卒業までに獲りたかった」と語る女流名人位に就いた。

 里見の歩んできた道のりは人間離れしている。今年の8月に第2期ヒューリック杯清麗戦の防衛を果たし、通算タイトル獲得数は41期。清水市代女流七段の持つ歴代1位の43期にあと2期まで迫っている。出場49回を数えるタイトル戦の勝率は.837。初戴冠から28歳になる現在まで、12年もの間、無冠になることなく、文字通り女流棋界を牽引してきた。しかし、本人は意外なほど記録や数字には無頓着だ。

「初めての出来事は記憶に残りますけど、それからは記憶があまりなくて、執着もほとんどないんですよね。このタイトルだから頑張ろう、というのは全くないし、失ったらどうしよう、と考えることもあまりない。結果よりも、将棋が強くなることを目標にしてきました」

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photograph by Ai Hirano

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