#781
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<横綱の品格と責任> 白鵬 「孤独も悔しさも稽古でしか埋められない」

2011/07/05
野球賭博事件、そして八百長問題の発覚。この1年、激震に見舞われた
角界のなかでたった一人の横綱は己と向き合い続けていた。勝利だけでなく、品格をも求められる孤高の力士が、模索の日々と相撲愛を語った。

「今日明日にでも横綱をやめたい、やめてもいいって気持ち、ありますよ。特に負けた日なんていうのは、『どこの川が深くて飛び込みやすいかな』なんて考えるしね」

 27歳の色白の青年は、そう言って目を細めた。

「でも、やめるのは簡単なんです。横綱に上がることもすごいけれど、横綱という地位を8年10年と責任持って、品格を保ち続けるってことに、また価値があると思う。私以外の68人の横綱を尊敬する気持ちはもちろんあるけれど、特に長く横綱を張っていた人は、やはりメンタルの面で違いがあると思いますよ」

 横綱昇進から5年目を迎えた白鵬が、静かな口調でそう言い切った。

「この5年は、本当にあっという間でした。横綱というのは勝たなきゃいけない。負けたら引退しかない。大鵬さんは昇進した時にまず引退を考えたと聞くし、初代若乃花さんは昇進したくない、断わりたい、と言ったそうです。極端な話、大関ならば8番勝てていればいい。それまでの私は、力の差は横綱も大関も変わらないのでは、と思っていたんです。『横綱の気持ちは横綱になった者にしかわからない』と先輩方が言うのを聞いていて、そんなことはないだろう、と。でも、自分が昇進してみたら、『その通りでした。すみませんでした』って言いたくなりました」

「相撲を愛してるからこそ、品格も出てくるのではないかと思う」

 いつの時代も、大相撲界の横綱には、目に見えない「品格」が求められる。白鵬が尊敬して止まない「角聖」双葉山も然り。おそらく歴代の横綱の誰もが、品格――横綱像を追求し、もがいてもいたはずだ。

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photograph by Shigeki Miyajima

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