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“厚底シューズ”が高校部活動に与えた影響とは? 強豪・佐久長聖の指導者は葛藤「高校生でこんなタイムが出てしまっていいのか」
text by
加藤康博Yasuhiro Kato
photograph byYuki Suenaga
posted2022/05/31 11:01
佐久長聖高校の高見澤監督に、高校陸上と厚底シューズの関係について聞いた
「葛藤しながら指導をしているのが、実情なんです」
佐久長聖高校には東京五輪マラソン6位の大迫傑を筆頭に綺羅星の如く輝くOBが多数いる。現在の選手たちもその先輩たちの姿を目標にしており、競技への意識は非常に高く、それだけに練習をやり過ぎてしまう選手が多いという。しかし一足飛びに結果を求めるのではなく、こうした地道なトレーニングが、将来の飛躍のために必要だと選手に説く毎日だ。
「ジュニアの年代では日本人と世界はそれほど力の差がないのに、シニアになると一気にその差が開きます。そうならないためにも成長期に取り組むべきトレーニングをしっかりやることが大切だと思うのです。しかし目の前の試合でのタイムに一番こだわっているのが他ならぬ選手たちであり、彼らの気持ちも無視できません。そこに葛藤しながら指導をしているのが、今の実情なんです」
カーボンプレートが内蔵されたシューズも、その性能を発揮するためにはフォアフット接地と言われる、前足部分で接地して走るフォームがもっとも反発力を得やすいと言われているが、高見澤はその習得は目指していない。無理して直せば、故障につながるためだ。
無理にシューズに適応するのではなく…
「しかし意外にも本校の生徒はフォアフットで走る選手が多いと評価されることが多いんです。これこそ地道なトレーニングの賜物だと思っています。無理にフォームを変えるのではなく、地味な筋力強化や動き作りを繰り返すことで、選手が本来持つフォームを崩すことなく、自然と無意識のうちにフォアフットへと移行しているようです。
そもそも厚底シューズは世界記録保持者のエリウド・キプチョゲなどアフリカ人選手に合わせて作ったもの。私たちは起伏のあるクロスカントリーコースを毎日の練習場にしていて、標高こそ低いですが、不整地で走ることの多いアフリカの選手に近い練習環境があります。それも影響しているのでしょう。ただ決してフォアフットにしようとは選手には言いませんし、意識して変えようとしている選手は動きで分かりますので、すぐにやめさせています」
無理にシューズに適応するのではなく、その選手の持つ自然な動きを損なわない効率的な走りを目指す。それが故障を減らすことにもつながるが、一朝一夕で出来上がるものでもなく、時間のかかる取り組みである。しかし高見澤が焦ることはない。目指すのは目先の結果ではなく、選手としての土台づくりだ。