MLB Column from WestBACK NUMBER
明暗が分かれた二人の日本人クローザー
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byREUTERS/AFLO
posted2007/05/28 00:00
昨年クローザーとして大活躍した2人の日本人投手が、今シーズンは対極の立場に置かれてしまっている。
ドジャースの斎藤隆投手は、昨年に引き続き破竹の勢いを続けている。ここまで20試合に登板し、1勝0敗14セーブで、防御率1.71(5月23日現在)。昨年から24試合連続セーブを続けていて、彼の勢いそのままにチームも開幕から地区首位を走り続け、まさに絶好調。現在のペースでいけばオールスター戦出場も夢ではない状況だ。
「クローザーとして意識はしていないです。(試合で)出し惜しみみたいなことだけはしたくない。このチームには僕がいなくなっても代わりはいくらでもいますからね。ただドジャースの一員として助けになりたいだけです」
すでに有名な話になっているが、このオフに斎藤投手はチームからの2年契約提示をあえて固辞して1年契約を結んでいる。自分自身につまらない余裕を与えず、逆に追い込むことで今シーズンに臨むモチベーションを高めるためと説明してくれたが、少しでも高額年俸を勝ち取ろうとする選手とそれを取り巻くエージェントが大半のメジャーにあっては、かなり異質な存在だろう。昨年途中から任されたクローザーだが、昨年同様、シーズンを見据えた投球はしていない。今年の斎藤投手のロッカーには漢字で「1試合完全燃焼」と染め抜かれた日本手ぬぐいが掛かっている。その言葉通りにマウンド上の斎藤投手は、いつ潰れても構わない気持ちで“引退”と隣り合わせの待ったなしの投球を続けているのだ。
一方、レンジャーズの大塚晶則投手は、やるせないシーズンを過ごしているように思えてならない。成績だけをみれば、1勝0敗4セーブで、防御率1.08(同じく5月23日現在)と文句のつけようもないのだが、その内面はどうなのだろうか。
まずチームがア・リーグ最下位を争うほど低迷を続け、本来投げるべき場面で投球できていないのだ。ここまで大塚投手はセットアッパーとクローザーで併用されてきたが、18試合に登板して4セーブ(1度セーブに失敗し、勝利投手になっている)にホールド数はわずか2つ。つまりこれは、半分以上、最少得点を守りきる場面で登板していないということになる。その中には間隔が空くのを避ける調整登板も含まれてくるのだから、大塚投手のように気持ちを全面に押し出して投げるタイプの投手にとって、すべての登板で一定以上のモチベーションを維持し続けるのは簡単ではない。
それ以上に問題なのが、今季就任してきたロン・ワシントン監督の起用法だろう。2003年にクローザーとしてサイヤング賞を獲得したエリック・ガニエ投手が斎藤投手のいるドジャースから移籍したことで、大塚投手がそのあおりを受けているのだ。
もちろん過去の実績から見て、ガニエ投手がクローザーを務めるのが常道なのだろう。しかし彼は過去2年間故障を繰り返し、わずか16試合しか登板していなかった。昨年行った手術(右ヒジと腰)の回復が遅れ、今シーズンの開幕は故障者リストに入っていたし、さらに復帰後もわずか4試合で再び臀部を痛めて故障者リストに逆戻り。結局5月8日に再復帰を果たし、この間大塚投手は、クローザー→セットアッパー→クローザー→セットアッパーを繰り返したのだが、地元メディアが報じたところではワシントン監督は大塚投手に対し役割異動に関する説明や説得をしていないようなのだ。
「落ち込んではいないけど怒っています。今は『チクショー見ていろよ』という気持ちで投げています。これまでの僕の野球に対する態度や姿勢をみせ、正しい道を進んでいけば、自分の思い通りになっていくと信じています」
最初にクローザーから外された時、大塚投手は自分の悔しさをポジティブなかたちで投球に転嫁していた。しかし首脳陣がそういう大塚投手の思いや投球を感じ入ることなく、無反応を貫かれドライに対応されてしまったら、大塚投手ならずとも日本人なら誰でも憤りを感ぜずにはいられないところだろう。プロの世界の厳しさといってしまえばそれまでだが、文化の違いというか、自分の中では受け入れにくいメジャーの側面ではある。
結果的にガニエ投手を追い出した斎藤投手に対し、その彼を受け入れる格好になった大塚投手……。何とも皮肉なことになってしまったものだ。