30歳を過ぎてから2レース連続で自己ベスト更新だ。2度の五輪で悔しさを味わった天才ランナーが“3度目の正直”へ向かって態勢を整えた。3月12日に開催された名古屋ウィメンズマラソンで、'21年東京五輪女子マラソン代表の鈴木亜由子(日本郵政グループ)が2時間21分52秒の自己ベストで日本勢最高の2位になった。2時間18分8秒で連覇したルース・チェプンゲティッチ(ケニア)が独走状態になる中、2位集団でレースを進め、30km付近からロングスパートをかけた。
「足も呼吸も苦しかったけど、沿道の皆さんが『21分台、行けるぞ』と声援をくれた。(力を)出し切れた」。地元の愛知でのレースで、3年ぶりに解禁された沿道からの声に後押しされ、感謝を口にした。
トラック種目で出場した'16年リオデジャネイロ五輪の後、マラソンに転向。トラックで培ったスピードと勝負強さを武器に、'19年9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で2位になって'21年東京五輪に出場したが、結果は19位。足の痛みで不本意な成績に終わったリオ五輪に続き、悔しさを味わった。
しかし、鈴木はくじけなかった。昨年9月25日のベルリン・マラソンで、それまでの自己ベストだった'18年北海道マラソンの2時間28分32秒を6分30秒縮める2時間22分2秒をマーク。それから約半年後の名古屋でさらに10秒縮めた。コース条件を勘案すれば数字以上の成長だ。
名古屋を最後に、'24年パリ五輪代表選考会となるMGC(10月15日、東京)の出場権が懸かった国内指定大会はすべて終了した。この時点で出場権を手にした女子は29人。鈴木とともに東京五輪代表だった一山麻緒、前田穂南、補欠だった松田瑞生、さらには1万mで東京五輪に出場した新谷仁美、安藤友香も名を連ねているが、目覚ましいタイムはMGC欠場を表明している新谷の2時間19分24秒ぐらい。名古屋での鈴木もチェプンゲティッチとの差は大きく、代表争いは熾烈でも、ハイレベルとは言いにくい状況だ。
ただ、実力が伸びているという手応えは何にも勝るエネルギーになる。「2時間20分切りを目指し、自分の可能性を信じて挑戦したい」と意気込む鈴木が今後どこまで伸びるか。期待が高まる。