「堤さん、あなたには『地域から愛される野球部』を作ってほしいんです」

　少し拍子抜けした。てっきり前監督に厳命していた“甲子園出場”を告げられると思っていたからだ。野球の成績に関しては「私も野球が好きですので、地区予選を勝ち抜いて県大会に進出するぐらいの高校にはしてほしいです」とだけ。岡山では、県内を岡山市を中心とした東部、倉敷市近郊の高校が属する西部など、複数の地区に分けて予選を行う。

あんたら、“悪の枢軸国”や

　そこを勝ち抜いた、春は24、秋は20の高校が、県大会に進出できるのだ。簡単に言えば、県16強程度の力をキープしてくれれば十分ということだった。

　私と斎藤の赴任とともに加入した新入部員はわずか3人。監督交代騒動があり、選手勧誘などができていないのだから今思うと当然なのだが、高校野球事情がよくわかっていなかった当時は衝撃だった。

　高校野球の指導についても経験は皆無だし、おかやま山陽の野球部についてはほぼ何も知らない状態だ。就任間もない時期の練習試合で、岡山県内で審判員をしている方に「おかやま山陽の野球部って、地元でどんな存在ですか？」と尋ねた。

「あんたら、“悪の枢軸国”や」

　最初は意味がわからなかった。なんでも、岡山県の高校野球界においては、倉敷商などの公立の伝統校が、無条件で応援される“アイドル”的存在。一方で、勝とうが負けようが県民に反感を買うチームが公立、私立にそれぞれあり、その中の1つがおかやま山陽なのだという。最初は信じられなかった。ちなみに“悪の枢軸国”とは2002年に当時のブッシュ米大統領がイラン、イラク、北朝鮮の3国を批難する際に用いた言葉だ。

ブッシュ大統領　©Shigeru Tanaka

この代が“最強”だったのでは？

　パンチの効いた発言に出鼻をくじかれたが、前監督が関西、九州方面からスカウティングした2、3年生は精鋭ぞろいだった。3年生には高校野球の専門誌に名前が上がる野手が複数いたし、2年生にも、後に社会人野球や台湾プロ野球でプレーした左投手の知念広弥が在籍。高校野球の指導者としての経験も知識もないので、「甲子園が狙える」とか、県でどれぐらいまで勝ち進めるかは見当がつかなかったが、今までの野球人生で見てきた選手たちと比べても「力があるなあ」と感心したものだ。

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