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東アジアサッカー選手権 VS.北朝鮮 

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木ノ原句望

木ノ原句望Kumi Kinohara

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photograph byKenjiro Sugai

posted2008/02/19 00:00

東アジアサッカー選手権 VS.北朝鮮<Number Web> photograph by Kenjiro Sugai

 ワールドカップ予選の試合で何かを試す余裕はない。勝ち点1を積み上げて予選突破を狙うことこそが求められている。

 とはいえ、チームを率いる指揮官には、新しい戦力や戦法など試してみたいものはある。特に、3次、最終と予選を勝ち進んで本大会でのプレーをにらんでいればいるほど、短期、中期、長期的な狙いはいろいろとあるに違いない。問題はそのテストをいつどこで実現できるかだが、代表チームとしては常に勝つことを求められているだけに、なかなか実行に移すのは簡単ではない。

 病に倒れた前任者のイヴィチャ・オシム監督の後を急遽継ぐことになり、12月上旬に登板して間もない岡田武史監督にはなおさらのこと、試したいことは多いのではないだろうか。そんな51歳の指揮官にとって、2月17日から始まった4ヶ国対抗の東アジア選手権は絶好の機会かもしれない。

 偶然とはいえ、2月6日のW杯初戦タイ戦までの3試合を戦った先発経験者のうち、高原直泰、巻誠一郎、大久保嘉人の3人のFWとMF阿部勇樹らを、ケガや体調不良などで今大会のメンバーから失った。

 さらに、日本が1−1で引き分けた17日の東アジア選手権初戦の北朝鮮戦では、MF中村憲剛が発熱でベンチ外になり、MF山瀬功治も大会直前に足を痛めながらのチーム帯同と、岡田監督にはメンバーを替えざるを得ない状況だった。もちろん、残ったメンバーにはアピールのチャンスでもある。

 この試合でいくつか試した選手起用の中でも、特に、通常は右サイドバックでプレーする加地亮を左サイドバックで最後まで起用し続けたところに、この大会でなにか新しいモノを手にしたいという、岡田監督の強い意志を感じた。

 先発メンバーの代表デビューはFW田代有三とGK川島永嗣の2人。センターバックに、代表戦は06年10月11日のアジアカップ予選インド戦(0−1)以来3戦目となるDF水本を置き、ベンチスタートが多いMF羽生直剛をMF山岸智、MF遠藤保仁、MF鈴木啓太と組ませて中盤を構成。さらに、後半途中交替で代表初キャップのDF安田理大、代表3戦目のFW前田遼一を投入。しかも、安田は本来の左サイドバックではなく、左MFでの起用だった。

 結果的にはこのダブル交替が奏功し、交替出場4分後の後半24分に安田が左サイドを攻めて上げたクロスに、ゴール前に詰めた前田が相手GKのはじいたボールを冷静に見極めて頭で同点弾を押し込んだ。

 安田の突破力と勝負強さが上手く生かされ、また、前田の登場で田代の動きも活性化したように見えた。田代はボックス周辺での鋭さを見せて、後半34分、同36分と立て続けに枠をとらえたシュートを放ち、相手ゴールを脅かした。

 しかし、代表試合経験の少ない選手が多いチームはどこかぎこちなく、反日感情の強い重慶で地元中国のファンから浴びせられたブーイングの影響もあったのか、試合にうまく入れないまま、開始6分でフロンターレFW鄭大世(チョン・テセ)に押し込まれて先制点を決められた。また、この場面だけでなく、日本が前に出かけたところでボールをとられ、北朝鮮のカウンターを浴びるという危うい場面も何度かあった。これらは修正すべき課題であることは言うまでもない。

 だが、ぎこちなかったのは代表試合経験の少ない選手ばかりではなく、左サイドでプレーした加地も同じ。攻め上がっても右足に持ち替えないとクロスを送れないので一手間余分にかかってしまい、攻撃のスピードや鋭さが減少してしまっていた。それでも、岡田監督が彼を変えなかったのは、左サイドもできるようになって欲しいという、この試合で代表キャップ62となったサイドバックのスペシャリストへのメッセージではないだろうか。

 岡田監督は「もうちょっといい試合ができるかと思っていた」と言う一方で、「自分なりに『これくらいはできるんだ』とある程度、見当を付けることはできた」と話し、この試合でのテストの成果を口にした。

 次は20日にホスト国である中国と対戦するが、この日以上に日本に対するブーイングが沸き起こることが想定されている。そういう雰囲気の試合で、指揮官は何を試し、チームは何を得ることができるのか。模索は続く。

川島永嗣
岡田武史
前田遼一
水本裕貴
安田理大
鈴木啓太
羽生直剛
鄭大世
山岸智
田代有三

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