打てば誰よりもヒットを量産し、走っても守っても、そのスピードと技術で観るものを魅了し続けた。彼が演じてきた数々の名場面から“ザ・イチロー”のプレーを厳選!(全2回の後編/前編へ)
PLAY 4 2009.9.18 難敵リベラを仕留めた初のサヨナラホームラン。
'09年9月18日、シアトル。イチローはメジャー初のサヨナラ本塁打を放った。相手はヤンキース、マウンドには歴代最多の652セーブを記録したマリアノ・リベラがいた。1対2の9回2死二塁。初球だった。内角92マイル(約148km)のカットボールを振り抜いた打球は高々と舞い上がった。『右翼席』に弾む歓喜の一発にも、イチローは表情ひとつ変えない。いつものようにクールに決めた。だが内心は違った。
「できるだけゆっくり回ろうと。だって、初めてだしね。なかなかヤンキースの試合でね。そのほうがいいでしょう。だって、もったいないじゃん」
リベラはこのとき39歳、通算522セーブ、この試合前まで36試合連続セーブの無双ぶりも発揮していた。対戦成績はここまで10打数2安打。イチローはご機嫌だった。
「いやぁ~、なかなかないでしょう」
記者陣に「狙っていたのか」と問われた。
「まぁ、頭にはあったぐらいかな。もう、なんか勢いつけていったれ思うて。あそこ(右翼席)に打ってんだから、『それを思っていたら、いかないわね』。まぁ、カウントにもよるしね」
イチロー対リベラの戦いが凝縮された言葉だった。イチローの打撃の奥義。それは相手投手のウイニングショットを仕留めることにある。
「それができれば、対戦が楽になる。そうでなければ、苦しくなる」
言わずと知れたリベラの内角カットボール。バットを折らないイチローが、リベラには何度もへし折られた。左打者には難攻不落。イチローはこの球を仕留めるために、こだわりを持ち、技術を磨いてきた。
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photograph by Naoya Sanuki