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[女流二冠インタビュー]西山朋佳「色づく世界が私を変えた」

2022/01/22
史上初の女性棋士への挑戦には区切りをつけた。しかし、その先に広がっていたのは、今まで以上に多彩で起伏に富んだ世界だった。女流の頂上で覇を競う彼女が自らの変化とこれからを語った。

 カーテンを開けると灰色の空。眼下には茶色く濁った海。ここはハワイ。温暖な気候と高い晴天率を誇る地上の楽園のはず、なのに……。

「あんな大雨、年イチくらいしかないらしいですよ。4泊の間、ほとんど大雨。道歩いていたら、車の泥水がバシャーって掛かって(笑)」

 旅の目的は、女性初のプロ入り祝いのはずだった。最後の例会と決めて臨んだ第68回奨励会三段リーグ戦で9勝9敗。満26歳の年齢制限を前にして退会を決断した。2021年3月6日の最終局からわずか5日後、西山朋佳は南国の激しいスコールに打たれていた。

「逆に吹っ切れた気持ちでした。あれは相当に珍しい経験。ちょうどよく笑える状況でした」

 西山はフフフッと穏やかな笑みを浮かべて旅路を懐かしんだ。

 最年少記録に最年長初タイトル獲得、と日常的に様々な記録が生まれる将棋界において、未だに達成されていないのが“女性の”棋士の誕生だ。西山は'19年10月~'20年3月に行われた第66回三段リーグで14勝4敗の好成績を挙げたが、次点の3位と僅差でプロ入りを逃した。

 三段リーグは年2回開かれ、各自18局を行い原則上位2人のみがプロの段位・四段になれる狭き門。奨励会入りを果たした女性自体が少ないが、さらにプロ入り最終関門の三段リーグ到達となると、西山、里見香奈女流五冠、現役の中七海三段のわずか3人しかいない。過去には西山と同じ14勝4敗の成績でプロ入りを決めた棋士もいる。さらに14勝4敗で次点となった者は豊島将之九段ら6人で、西山を除く5人はいずれも後にプロ入りしている。しかし、データが何だと言うように、西山は'20年度後半のリーグ開幕を前に「今期で決める」と周囲に宣言していた。

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photograph by Tomoki Qwajima

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