迷走していたチームは、なぜひとつにまとまったのか。
遠藤保仁の証言で貴重な1勝を振り返る。
「ロスタイム、4分もあるのか」
カメルーン戦、掲げられたボードを見た遠藤保仁は、思ったよりもロスタイムが多いなと思った。スタジアムには時計がなく、なんとなく時間を推し量っていたが、正確には掴めていない。ベンチからも時間の通知はなかった。
日本は、カメルーンのパワープレーの脅威にさらされている。だが、4年前のドイツW杯、オーストラリア戦で味わった「いつかやられる」という恐さは感じなかった。
「いけるでしょ」
遠藤は、勝利を確信していた。
実はこの試合、中盤の遠藤はキックオフから7分が過ぎるまで一度もボールに触れなかった。
「出足から(本田)圭佑の頭を目掛けて、けっこうロングボールを蹴っていたからね。まあ最初はセーフティにやって、失点したくないという気持ちが強かったんだと思うけど、それにしてもちょっと蹴り過ぎやった。落ち着いてやれば全然回せるのに。ただ、みんな、すごい集中していた。あれが効いたんかなあって思ったね」
遠藤が言う“あれ”とは、1本のビデオである。
「あんな一体感を感じられたのは、初めてやったね」
キックオフ直前のミーティングで、選手たちは過去の日本代表戦のビデオを見ていた。身体を張って守備するシーン。身体を投げ出してゴールを決めるシーン。それは、「俺たちはチームのために戦ってきたんだ」という一体感を喚起するようなビデオだったという。戦いへのモチベーションが上がり、やがて選手の目の色が変わった。
「これってバルサのグアルディオラ監督がよくやるみたいだけど、効果はめちゃくちゃあるね。『ここまで苦しんでやってきた。あとは最高の舞台で、最高の結果を出そうぜ』って、みんな気合いが入ったから。あんな一体感を感じられたのは、初めてやったね」
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