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試合を決めたリケルメの魔法。 

text by

浅田真樹

浅田真樹Masaki Asada

PROFILE

posted2006/06/22 00:00

 今大会のアルゼンチンを、リケルメ抜きに語ることはできない。

 この絶滅危惧種に属する古典的プレーメーカーは、広い視野と多彩なアイデアで、危険なパスを次々に送り出す。その一方で運動量は少なく、守備も当てにはならない。前監督のビエルサが、リケルメに見向きもしなかったのには、そんな理由がある。

 だからこそ、現監督のペケルマンの決断は注目を集めた。守備を免除する代わりに、攻撃のすべてをリケルメに託す。それこそが、ペケルマンが採った戦術だと言ってもいい。ある意味で、懐古主義的なこの戦術が、成功するか否か。今大会の注目点のひとつである。

 グループCの初戦、リケルメのリケルメたる所以は、早くも発揮された。

 24分、左サイドのFKから、リケルメが鋭いボールをニアサイドに送ると、ボールはゴール前にこぼれ、これをクレスポが難なく押し込む。コートジボワールの攻勢に、さしものアルゼンチンもタジタジになっていた時間帯での、それだけに貴重な先制点だった。

 さらに、この試合最大の見せ場となる2点目は38分。ドリブルで持ち上がったリケルメは、左に流れてきたM・ロドリゲスに一度パス。そしてリターンパスを受けると、コンマ何秒というわずかな、それでいて決定的なタメを作り、右足でスルーパスを放った。

 際どいタイミングで飛び出してきたサビオラは、ジャスト・オンサイド。きれいにDFラインと入れ替わると、GKの鼻先でボールを突き、ゴールへと流し込んだ。

 スルーパスとは、DFとDFの間、いわゆる“門”を通すパスのことだが、このパスを出したリケルメと、受けたサビオラの間に、相手選手は4人。伝家の宝刀は、実にふたつの門をぶち抜いたのである。

 前半を終えて、アルゼンチンが2対0でリード。スコアほどに、実力にも、チャンスの数にも、差があったわけではない。だが、限られたチャンスを決定機にまで仕上げるという点で、アルゼンチンが、いや、リケルメが一枚上手だった。

 後半に入ると、アルゼンチンはこのまま試合を終わらせてしまえとばかり、自陣からゆっくりとショートパスを回し、時間を費やすことを優先した。だが、ここにスキが生まれた。コートジボワールは高い位置からプレスを強め、怒涛の反撃に転じると、ついにワールドカップ初ゴールを奪う。

 82分、右サイドを抜け出したB・コネのクロスは逆サイドへ流れたが、そのボールをディンダンが拾うと、そのままドリブルでゴールライン際まで持ち込み、グラウンダーで再びクロス。これをドログバが左足できれいに合わせて、2対1とした。

 その後も猛攻を仕掛けるコートジボワール。だが、必死の猛攻も、百戦錬磨の伝統国相手に、前半失った2点は大きすぎた。

 アルゼンチンの出場14回、優勝2回に対し、コートジボワールは初出場。歴史や伝統では到底及ばないが、志向するサッカーは、よりモダンなものであった。マンツーマン・ディフェンスをベースに、攻撃ではリケルメに頼るクラシカルなサッカーを展開するアルゼンチンに対し、コートジボワールには、攻守両面にモダンな組織的戦術が採り入れられていた。それでいて、ブラック・アフリカン特有の爆発的なスピードには、前回大会のセネガル以上のインパクトがあった。

 しかし、その一方で、決定的に欠けていたものもある。サイドからドリブルで仕掛けられる選手はいた。決定力抜群のセンターフォワードもいた。だが、これらの多彩な武器を最大限に生かし、しっかりと攻撃の道筋を整理してくれるパサーがいなかった。

 勝敗の差は、伝統と新興の差でも、クラシカルとモダンの差でもない。アルゼンチンにはリケルメがいた。この試合に限っては、それこそが勝敗を分けた最大の要因である。

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