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桐生祥秀が臨む「内なる戦い」。
世界陸上で絶対に必要な選手として。
posted2017/08/04 08:00
text by
宝田将志Shoji Takarada
photograph by
Takashi Shimizu
この夏、桐生祥秀(東洋大)はロンドンへと向かった。世界陸上競技選手権男子400mリレー(通称・四継)に出場するために。
日本歴代2位の10秒01の記録を持つが、100mは走らない。走れない。3人の代表枠に入れなかったからだ。
シーズン序盤、誰がこんな展開を予想できただろう。
3月に豪州・キャンベラでの初戦で、いきなり10秒04(追い風1.4m)をマークすると、4月の織田記念国際では向かい風条件下で日本最高となる10秒04(向かい風0.3m)。冬季の基礎体力強化でレース終盤の減速幅が小さくなり、陣営は「もう9秒台は出る」(土江寛裕コーチ)と自信を深めていた。
「疲れていた」日本選手権。
今季のスケジュールは例年と少し違っていた。五輪翌年ということもあり、意図的に出場試合を増やし、海外勢との“スパーリング”である欧州での試合も、いつもより前倒しして6月上旬に組んだ。そして7月は国内でじっくり練習に徹し、体を研ぎ澄ます。すべては世界選手権の準決勝を勝ち上がり、決勝で戦うことから逆算した計画だった。
6月11日に欧州遠征から帰国すると、「気持ちが少し疲れていた。何度も集中しなければいけなかったから」(同)。そして、約2週間後の日本選手権で運命は暗転する。
雨の100m決勝、桐生は得意の中盤で伸びを欠き、サニブラウン・アブデルハキーム(東京陸協)と多田修平(関学大)、ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)に敗れ4位。タイムは10秒26だった。
「代表に入ってしっかり走るという目標の一歩手前でつまずいてしまった。先のことばかり考えすぎていたのもあったんですけど……。本当に足元すくわれたって感じですね。悔しいですよ、もちろん。でも、記者の方に『世界陸上に行って活躍する』と言っていた僕がミックスゾーンを無視して通るわけにはいかない。話がまとまってないかもしれないですけど……」
普段と異なる口調や表情。努めて冷静に、真摯に受け答えしようとする姿に、21歳の失意と美学は滲んだ。