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パウエル直伝のスタート&肉体改造。
“関西発”100m走の新星・多田修平。
posted2017/05/29 07:30
text by
別府響(Number編集部)Hibiki Beppu
photograph by
AFLO SPORT
ひときわ低くスタートを切った細身のシルエットは、一気に先頭に立つと70m付近でもまだ、先頭をキープしていた。
「おおぉー」
快晴の空の下、等々力陸上競技場に集まった1万5000人の観客からこの日一番のどよめきが起きる――。
5月21日に神奈川で行われた、ゴールデングランプリ川崎。大注目はもちろん、ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)やサニブラウン・ハキーム(東京陸協)らによる日本人初の9秒台が期待される、男子100mだった。
さらにこのレースには五輪・世界選手権でも活躍し、9秒74の自己ベストを持つジャスティン・ガトリン(米国)も出場予定で、それが盛り上がりに拍車をかけていた。
だがそのレースで、冒頭のように一番の歓声を浴びたのは、ガトリンでもケンブリッジでもなく、3位に入った20歳の新星・多田修平(関西学院大)だった。
ガトリンが絶賛した、そのスタート技術。
「スタートは本番でいつもちょっとミスをすることが多かったので、今回こういう大舞台で好スタートを切れたんは大きな経験というか、収穫になりました。ガトリン選手の前を走ったことで、中盤『イケる!』と思ってしまって……。後半はそれで力んでしまったのもあります」
その言葉通り、抜群のスタートで先頭に立つと、その差を保ったまま終盤まで激走。最後はガトリン、ケンブリッジの2人の実力者にかわされてのフィニッシュとなったが、注目されたサニブラウンや9秒台の記録をもつ蘇炳添(中国)には先着。向かい風の悪コンディションの中、10秒35の記録以上の強さとインパクトを残した。
「誰だか知らないが、すばらしいスタートを切った選手がいた。彼こそが今日のダークホースだよ」
レース後にそうガトリンが語った通り、レース前はほぼノーマークだった多田。だが、今季は関西インカレ決勝で向かい風をものともせずに10秒22をマークするなど好調を維持していた。