炎の一筆入魂BACK NUMBER
急失速を知る緒方監督と新井の思い。
「一戦必勝」「凡事徹底」を貫く広島。
posted2016/07/22 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Hideki Sugiyama
長い、長いペナントレースをマラソンにたとえるなら、すでに折り返しを過ぎ、残り15キロほどとなった状況だろうか。レース前の予想に反し、折り返し前に広島が団子状態から抜け出し、独走状態に入っている。
振り返っても、後続の走者は見えない。当然、前にも誰もいない。もちろん疲れはある。気力との戦いに入り、孤独な戦いとなった。アクシデントさえなければ、あとは自分のペースを乱すことなく走り続けることで、金メダルも見えてくる。
ただ広島は、24年間、優勝から遠ざかっている。トップでレースを進める展開に慣れていない。今年と同じようにトップを快走していた'96年も苦汁をなめた。当時は負傷者が相次ぐ不運もあったが、負の歴史としていまだに傷は深く残る。
それでもアクシデントによる急減速に細心の注意を払いながら、広島はトップを走り続けている。レース序盤と変わらぬピッチで走れている大きな理由は、2人のペースメーカーの存在にある。
緒方監督は「投手を中心とした守り勝つ野球」を徹底。
1人目は現役時代に前述した'96年、巨人にひっくり返された「メークドラマ」を経験した緒方孝市監督だ。報道陣に対しても、2位との差が広がれば広がるほど表情は険しく、報道陣へのリップサービスも減ってきている。試合後も淡々と振り返り、ときには勝利しても反省を促すこともあった。
「とにかく目の前の試合、一戦一戦。我々の野球をやるだけ」
ほぼ毎日のように、そう言い続けてきた。
今年はビッグレッドマシンガン打線と称されるように、12球団屈指の打線が他球団の脅威となっている。だが、緒方監督は「投手を中心とした守り勝つ野球」が「我々の野球」と言ってはばからない。どれだけ大量得点で大勝しても、先発陣の離脱が相次いでも、決して曲げなかった。
2年目のチーム方針として「投手を中心とした守り勝つ野球」を昨秋から選手に叩き込み、シーズンに入ってもメディアを通じて再認識させるように繰り返してきた。
それが広島の伝統だということも1つの理由だ。ただ、言葉で何度も発信しているのは、注意喚起の意味もある。