サッカーの尻尾BACK NUMBER
乾貴士がエイバルで得た意外な評価。
ドリブラーから「こんなに走るのか」。
posted2015/10/07 10:30
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
AFLO
バスクの地方紙に執筆する、あるベテラン記者が言った。
「タカ(乾)って、こんなに走る選手だったのか」
リーガ第7節、ラスパルマス対エイバル戦の試合後のことだ。乾は先発でプレーし、エイバルは0-2で勝っている。
ベテラン記者は続ける。
「たぶん、エイバルの関係者もそれを知らずに獲得したはずだ。キレのあるドリブラー、というのが彼に関する唯一の情報だったから」
乾貴士に対して周囲が抱くイメージに、変化が見られつつある。
当初は誰もが乾のことを、ドリブラーやテクニシャン、いわば天才肌の選手だと見ていた。乾を紹介する現地記事にも「ドリブル」という言葉が頻出した。しかし蓋をあけてみると、彼らが目にしたのは、攻守に走る乾の姿だ。
走らないと、試合に出られないという現実。
味方がボールを持つと、全力でスペースへ走り抜ける。単独でドリブルを仕掛けることもあるが、印象に残るのは、むしろしっかりとつなぎ、複数で崩していこうとする姿勢だ。
攻撃だけではない。守備時には相手のサイドバックを自陣深くまで追いかける。先発した過去3試合では、チーム有数の走行距離を出した。
走る乾。
そんなイメージが、スペインで定着しつつある。
「ここでは守備も含めて走らないといけない。やらないと、試合に出られないので」
乾は当然とばかりにそう言った。
現在のエイバルは、最終ラインから前線までが試合を通して走りきる、リーガの中でも極めて運動量の多いサッカーを見せ、それが結果につながっている。
7節終了時で勝ち点は12。6位デポルティーボと勝ち点で並び、ヨーロッパリーグ出場圏内を争う。アトレティコとは勝ち点1差、レアル・マドリーとバルサの2強との差もわずか3だ。
序盤から100%を出し切るエイバルのサッカーに「これが1シーズンもつのか?」という疑問はつきまとうものの、リーガ最小クラブの躍進は今季のトピックのひとつになっている。