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金本は“新・代打の神様”になれるか!?
桧山、川藤らに見る成功の条件。  

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2012/09/10 12:25

金本は“新・代打の神様”になれるか!?桧山、川藤らに見る成功の条件。 <Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

9月10日現在、金本は108試合に出場して打率.256、得点圏打率.230。来季は代打要員として、持ち前の勝負強さを今季以上に発揮していくことが求められる。

 見当たらない。近年で言えば、中日の立浪和義と、広島の前田智徳、くらいか。

 2000本安打以上し、かつ、晩年に「代打の切り札」として活躍した(している)選手である。

 阪神は来季、金本知憲(44歳)を代打として起用する方針をすでに固めたという。しかし、金本ほどの実績を持つ打者が、代打としてチームにフィットするかどうかは未知数だ。

 代打稼業というのは、たとえば、先発投手がセットアッパーやストッパーに転向するケース以上に、デリケートで、難しい面がある。

「代打にリズムはない」

 同僚の桧山進次郎(43歳)は、それに気づくまでに丸2年を費やしたという。言わずと知れた阪神の「現・代打の神様」である。同じ左打者という意味では、その桧山との兼ね合いも気になる。

桧山が大先輩・川藤から受けた、代打成功へのアドバイス。

 かつて桧山はこう語っていたものだ。

「それまでは代打で結果を出し、スタメンに復帰することばかりを考えていた。代打は、そのためのステップだと。でも'08年ですかね、39歳を目の前にして、いつまでもどっちつかずの状態だと前へ進めないと思った。だから、まずは代打にとことん集中しようと思った。阪神の大先輩で、代打として活躍した川藤(幸三)さんに『まだ、おまえの頭の中が切り替わっていないんや』と言われ続けていた。『いかに腹据えるかや』と。それがようやくできたのかもしれない」

 そんな気持ちの変化が大きかった。2年間ひたすら考え続けていた代打のリズム。その答えが突然、空から落ちてきたかのようにわかったのだ。

「そんなモンないんや」

代打稼業にリズムを見つけようなど、どだい無理な話だった。

 それまでは迷いの連続だった。最初の対戦ということで、スタメン時の第1打席を想定したことがある。だが、スタメンなら1球様子を見るのもありだが、代打の場合は、それが甘いボールだったら終わりだ。1球に対する精神の張りがぜんぜん違った。

 逆に、代打に出番が回ってくるのは試合の終盤が多いので「これは第4打席なんや」と言い聞かせて打席に入ったこともある。しかし、これも無理があった。その日、その投手とは初対戦になるわけで、相手の調子がまったく測れなかった。

 代打の1打席。それは、これまで経験したいかなる感覚とも異なっていた。

 考えてみれば簡単なことだった。まったく準備もしていないのにいきなり呼ばれたり、ベンチ裏で十分スイングをし、気持ちが最高潮に達しているときに違う選手の名前が呼ばれたり。そんな稼業なのだ。その中でリズムを見つけようなど、どだい無理な話だった。

【次ページ】 '06年夏の甲子園を沸かせた鹿児島工業・今吉の例。

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