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パオロ・マルディーニ「あの“左足”には警戒している」 

text by

宮崎隆司

宮崎隆司Takashi Miyazaki

PROFILE

posted2007/02/22 23:19

SPECIAL FEATURES

[セルティック戦への展望]パオロ・マルディーニ「あの“左足”には警戒している」

クリスティアーノ・ルイウ=インタビュー

interview by Cristiano Ruiu

宮崎隆司=翻訳・構成

translation by Takashi Miyazaki

高橋在=写真

photograph by Ari Takahashi

──パオロ、まずはこのテーマから始めさせてもらいたい。そのテーマとは昨日(2月2日)、入団発表を行ったFWロナウド。レアル・マドリーで4年半を経ているとは言え、彼は元インテルの選手だ。'97年夏から5年にわたり宿敵インテルのシンボルであった選手と、まさかミランのロッカールームで再会するとは想像できなかったんじゃないかい?

 「そうだね。たしかに君の言う通りさ。ここイタリアで、『Inter-Ronaldo』の印象、つまり青と黒のユニフォームに身を包んだ彼の印象は、今でも強烈に残っているからね。正直、その彼に僕のロッカーを譲ることになるなんて夢にも思わなかったよ」

──ロッカーを譲ったって?

 「いうなればキャプテンの特権みたいなものが実はあってね、僕はミラネッロに専用のロッカーを二つ持っていたんだよ。その一つを彼にあげたってわけさ」

──インテルではなく、『AC Milan-Ronaldo』となった彼に受けた印象は?

 「うまく言葉にできないんだけど……。彼はその存在だけで、今季これまで欠けていた何かをクラブに、クラブだけじゃなく僕自身にも示してくれたように思っている。今はまだ短い言葉を交わしただけだけど、受けた印象はとてもポジティブなものだよ。

 そして、僕のキャリアに欠けていたプレーヤーが、遂に仲間として加わったとも思っている。これまでに僕は多くの偉大な選手たちと共に戦って来た。でも、そこには常に一人の存在が欠けていると考えていたんだ。それが他ならぬロナウドだよ。決してお世辞で言ってるんじゃない。長くディフェンダーとしてプレーしてきた僕は断言する。ロナウドはこれまでに僕が戦った中で2番目に手強い選手だ。あのディエゴ(・マラドーナ)に次いで僕を苦しめたプレーヤー、それがロナウドなんだよ。その彼が、再び世界ナンバー1の座を目指すために、多くのオファーを断り、多額の年俸を自ら削ってまでミラン入りを求めた。その彼に対し、僕たちは最大限の協力を惜しまないことを約束するよ」

──早速、セリエAのDFたちは『ロナウドに対して特別な守備網を張る』という類いのコメントを出しているね。

 「それは僕も知ってる。例えばマルコ(・マテラッツィ)は『ダービーは俺に任せろ!』と言ったらしいね(笑)。僕とビリー(アレッサンドロ・コスタクルタ)はこう話し合ったよ。『毎日の練習でロナウドに俺たちの守備を見せて、イタリアのディフェンスの感覚を彼のなかに呼び覚まそう。それが僕たちミランDFの仕事だ』とね」

──そのロナウドと毎日のトレーニングを共にする。この事実は、一体どんな影響を君に与えるんだろう?

 「ディエゴに次ぐ選手が、一度は失った尊厳を取り戻すために新たな戦いを始めようとしている。その姿に影響を受けない者なんていないさ。僕はこれまで、どんなFWを前にしても、常にDFとしての責務を果たしてきた。チームメイトであろうが敵であろうが、その考えは変わらない。練習で僕は彼を封じるための努力を怠らず、そうすることで彼に協力しながら、同時に自らを高めていくんだ。

 マルコ(・ファンバステン)やロベルト(・バッジョ)、ジョージ(・ウェア)やデヤン(・サビチェビッチ)……。彼らと共に汗を流した時と同じような興奮を、鳥肌の立つような刺激を、僕はロナウドを前にして感じるだろう。ハイレベルの技術の応酬がそこにはあるはずさ。今から楽しみで仕方ないよ」

──そこまで君に言わせるロナウドは、実際にはレアルを追われる形でミランに来た。この移籍を、現レアル監督(ファビオ・カペッロ)を知る一人として、君はどういう風に見ているんだい?

 「カペッロか……。たしかに彼のことはよく知っている。指揮官としての優れた部分はもちろんだけど、そうではない部分も同時に知り抜いているつもりだ。彼独自の考え方、独自の手法、独自のサッカーはしかし、時に小さくはない間違いを含んでいる。そう言えるだけの理由が僕にはある。今でも鮮明に覚えていて、忘れようにも忘れられない出来事が約10年前にあったんだよ。

 レアルでの1年を経てミランに戻って来たカペッロは'97-'98年シーズン、結果的に10位に終わったシーズンの過程で、不振の責任のすべてを選手たちに押し付けようとした。それを象徴していたのが、対ローマ戦(第32節='98年5月3日)の直後、オリンピコで0-5の大敗を喫した後のカペッロの言葉さ。彼は、当時の彼の側近だったデサイーに『私は君だけを残し、他の全員を放出する』と言ったんだ……。彼の言う『他の全員』は『過去の栄光だけで明日の試合に勝てると考えている連中』とされたんだよ!

 そして今この瞬間も、カペッロはレアルでまったく同じことをやっている。ロナウドだけでなくベッカム、ロベルト・カルロスら実力者たちを、つまり監督の存在を霞ませる星たちを締め出して、例の独自の手法に従う者だけを支配下に置こうとしている。カペッロはロナウドに対し、プレーさせない理由を説明することなく、一方でクラブ首脳に対し密かに放出を進言していた。これが彼のやり方なのさ。10年前と何一つ変っていないんだよ。

 ただ、当時のミラン首脳たちの決断は今のレアルとは違っていた。あのシーズン終了後、放出されたのは僕らではなかった。チームを追われたのは、他でもなくカペッロとデサイー。実に賢明な判断だったと言うべきだろうね。そしてチームに残った僕らは、新監督(アルベルト・ザッケローニ)のもとで奮起し、翌年のスクデットを制してみせた。当然、そこには僕ら選手たちの強烈な思いがあったよ。奪われた尊厳を取り戻すためにミランはシーズンを戦った。だからこそ、僕には今この瞬間のロナウドの胸の内が手に取るようにわかる。全世界に向けて、カペッロが間違っていたことを示すべく、ロナウドは闘志を燃やしている。そして、僕は彼のその思いを全面的に支持する」

──そのロナウドが加入したミラン攻撃陣は今季ここまで不調だった。こんな指摘があるね。シェフチェンコの不在はもちろんだが、むしろ最終ラインの高齢化が強く影響しているのではないか、と。カフーの衰えとセルジーニョの故障によって、サイドの攻め上がりは激減し、カカとセードルフの独力での突破頼みになってしまっている。違うかい?

 「否定はしないよ。だからこそミランは、右で高いオフェンス力を発揮するSBマッシモ・オッドを獲得した。4-3-1-2、この形が彼の力を最も有効に活かせるはずだ。とはいえ、ミランが今も複数の問題をDFに抱えていることは紛れもない事実さ。カラーゼとジュゼッペ(・ファバッリ)のコンディションは万全ではないし、アレッサンドロ(・ネスタ)の復帰は4月まで待たなければならないわけだから」

──中盤の選手たちにもまだ疲れが残る。長かったウインターブレイクを経た今も尚、W杯組に以前のようなキレは戻っていないね。

 「夏の一連の事件(モッジ事件)でチャンピオンズリーグ(以下、CL)の予備予選出場を余儀なくされ、そのために生じた調整の狂いが尾を引いている。走力を落としたMF、それは“薄くなってしまったフィルター”と同義語なんだ。DFラインの前に張られるフィルターが、今季のミランでは脆くならざるを得なかった。こうなってしまうと守備陣の負担は増し、攻めに転じるべきタイミングでも十分なサポートを中盤に対して行うことができなくなる。するとMFとFWの連携にも障害が出てきて……。そうしたネガティブな循環があったことは、認めざるを得ないだろうね」

──加えて、マイナス8ポイントのペナルティーが選手のモチベーションを奪った。この士気の低下がコンディションの回復を妨げているんじゃないかい?

 「厳しいな……。でも、それもまた否定できない(苦笑)。シーズン序盤は、半ば諦めにも似たムードがチーム内を覆っていた。その一掃に僕たちは努め、徐々に視界を晴らしながら、今、狙うべき目標を確認して前へ進んでいるところなんだ。国内で、そして欧州でも、ミランとは常に覇権を争うためにフィールドに立ってきたクラブだ。ミランで22年間のキャリアを持つ僕は、正直に言って、今季の状況を受け入れることに苦しんでいる。例えばエンポリやアタランタに対するリスペクトを持った上で、それでもやはり、彼らの背中を追うという現実に小さくない違和感を覚えてしまうんだ。それが果たすべき義務であると知りながらもね……。その現実が自分たちの責任で生まれたものではないからこそ、必要な士気を保つことに難しさを感じてしまっているんだ」

──それでもファンは強いミランを見たくてスタジアムへ集う。たとえその人数が減っているとしても。

 「むしろ、観客が減っている今だからこそ僕らには良いプレーを見せる義務があるんだ。それがプロとしての宿命である以上、常に最高のパフォーマンスを見せるために僕らはフィールドに立たなければならない」

(以下、Number672号へ)

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