Sports Graphic NumberBACK NUMBER

ゴードン・ストラカン「番狂わせをもう一度」 

text by

豊福晋

豊福晋Shin Toyofuku

PROFILE

posted2007/02/22 23:24

SPECIAL FEATURES

[指揮官の戦略]ゴードン・ストラカン「番狂わせをもう一度」

豊福晋=文

text by Shin Toyofuku

 今季、セルティックはクラブ史上初となるチャンピオンズリーグ・ベスト16進出を決めた。就任2年目でその快挙を達成したのが、ゴードン・ストラカン監督である。昨季はリーグとカップの2冠を達成。今季もリーグは独走状態にある。2年目にして、地元グラスゴーでのストラカンへの評価は非常に高いものとなっている。

 セルティックは1967年にCLの前身チャンピオンズカップで優勝。リスボンの地でインテルを粉砕し欧州の頂点に立っている。あれから40年。CLベスト8をかけたミラン戦を控えた今、ストラカン率いるこのクラブはどこへ向かおうとしているのか。

 セルティック・パーク内にある監督室に呼ばれたとき、ストラカンは何やら熱心な表情で手元の資料に見入っていた。簡素な部屋である。デスクにはあらゆる資料が重ねられ、その上にはいかにも重そうなペンが転がっている。パソコンに電話機、何冊かの本も置いてある。壁には古いチーム写真。ブラインド越しの窓からはいつもの不機嫌な曇り空が見えた。

 「待たせて悪かった。最近は色々と取材も多くて、さっきもTVの取材に答えていたんだ」

 CLベスト16進出の影響か。最近ではセルティック・パークにも外国の報道陣の姿が多く見られるようになった。

──CLでベスト16に進出したことで、世界の注目が集まっています。

 「いいことだ。何より重要なのは、これがクラブ史上初の決勝トーナメント進出だということだ。クラブにとって、そして私にとってもその意味は大きい。純粋に嬉しいよ」

──グループリーグ突破を決めた最大のポイントは?

 「ホームで確実に勝つことができた点に尽きる。我々はここでコペンハーゲン、ベンフィカ、そしてマンチェスターUに勝った。とても大きな勝ち点9だ。アウェーのマンチェスターU戦で得点できたことも大きかった。現行のルールではアウェーゴールが結果を大きく左右する」

──ホームでは圧倒的な強さを誇っています。

 「このスタジアムの雰囲気は凄まじい。6万人の声援はチームを後押ししてくれる。私はマンチェスターUでもプレーしたが、ここまでの雰囲気は感じられなかった。このスタジアムが持つ雰囲気は特別だ」

──欧州の舞台で結果を出すことの重要性をどれほど感じていますか?

 「もちろんCLは重要だ。欧州の舞台で戦うことで、チームのレベルも上がっていく。ただ、我々の優先順位ではあくまでも国内リーグが先だ」

──多くのクラブがCLを優先していますが、セルティックはそうではないと。

 「まずはっきりしておきたいのは、CLに出るためには国内リーグで勝たなければならないということだ。当然、我々は二つのカップを追う。しかし優先順位をつけるのならリーグだ。リーグで勝ち続けてCLに出続けること。これがクラブが目指していることだ。CLで勝ち進むのは簡単なことではない。ベスト16 ともなると相手はほとんどが欧州のビッグクラブだ。我々とは資金面でも桁が違うが、その中でも戦っていかなければならない」

──あなたが監督に就任してから、以前のような高額の補強はなくなった。

 「一人の選手を獲得するために500万ポンドを支払うような時代は終わったということだ。私が監督に就任したとき、選手へのサラリーの総額は英国の全クラブの中で6番目に高く、負債総額は2000万ポンドに達していた。今後は身の丈にあった経営をしなくてはならない」

──近年、低予算かつ的確な補強で結果を出しているリヨンやセビリアを目指すのでしょうか?

 「リヨンとセビリア?― いいか、セルティックは彼らとは比べ物にならないほど歴史が長いクラブだ。1967年にはチャンピオンズカップでも優勝している。確かに彼らは最近成功を収めているが、まだ出たての中小クラブだ」

──昨季は予備予選の2回戦で敗れるなど、欧州の舞台で結果を残せていません。

 「そこを変えていきたい。国内だけではなく、欧州の舞台でも結果を出せる様にだ。今季はその意味でも大きな一歩だった。昨季のアルトメディア戦は私の監督人生の中で最悪の経験だった。まさか0-5で敗れるとは、今でも信じられない試合だ。前任者のマーティン・オニールから引き継いだばかりで、まだ私のフットボールが浸透していなかった」

理想のサッカーのために必要だった中村俊輔。

 マーティン・オニールはセルティックで多くの栄光を勝ち取った監督である。彼が求めたのは純粋な英国的フットボールだった。前線に構えるのは、軍曹ことジョン・ハートソンと長身のクリス・サットン。中盤のアラン・トンプソンは彼らを目掛け幾千のクロスを放り込み、前線の巨人たちはその内の数本を確実に枠内に沈めた。激しく、フィジカルなフットボールがそこにはあった。

 しかしストラカンの就任と同時に、そのスタイルはがらりと変わる。オニール時代に中核をなした選手の多くはチームを離れ、ストラカンが探してきた新たな選手が加入した。蹴るサッカーから、繋ぐサッカーへ。それはオニールからストラカンへの移行を示すものでもあった。

 後方からのロングボールの数は激減し、中盤でのパス回しによる組み立てが増えた。中村俊輔が右サイドで起点となり、ワンタッチでシンプルにボールをはたき攻撃のリズムを作る。そこにグラベセンやマクギーディ、前線のヘッセリンクらが絡みゴール前まで運んでいく。パス交換からサイド突破を図り、そのクロスに合わせるのも得点パターンの一つだ。

 「私がセルティックでやりたかったのが、まさにこのフットボールなんだ」

(以下、Number672号へ)

ページトップ