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溝畑宏(大分トリニータ社長)「地方クラブは今サバイバルですわ」~経営者から見たJ~ 

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木村元彦

木村元彦Yukihiko Kimura

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photograph byMasaru Tatsuki

posted2009/03/26 14:47

溝畑宏(大分トリニータ社長)「地方クラブは今サバイバルですわ」~経営者から見たJ~<Number Web> photograph by Masaru Tatsuki

 Jリーグにかかわって以来、いろんな経済情勢がありましたけど、これほどの状況は今回が初めてですわ。末恐ろしいものを感じますね。個人消費ひとつとっても、チケットを買いたくても買えない。給与30%カットとか、賞与がもらえないとか、サポーターのみなさんも生活費で精一杯なわけです。溝畑さんごめん、3万円のシーズンチケット、今年は買えんと。

 このご時勢、地方だけでなくどのクラブも並大抵の経営努力では乗り切れんですよ。今後決算が出るなかで、親会社が輸出に頼っているようなところにも激震が走るんやないかないう気がします。親会社の状況が悪くなってきて、それがクラブの経営にも色濃く反映してきている。中村俊輔を戻しきれなかったマリノスなんかは分かりやすい例やと思うんですね。

 今年はJリーグの経営の厳しさが浮き彫りになる年だと思います。各チームがまさにその存在価値に対してシビアな審判を仰ぐことになるんやないですか。経営努力しないクラブは確実に振り落とされますよ。

 チケットもそうですけど、今はスポンサーも本当に取れない。もはや広告効果だけでは難しいんです。あちこち営業に行って言われるのは、野球やゴルフ、フィギュアスケートのほうがよっぽど広告価値あるよと。テレビも地上波ではほとんど映らない。スポーツ紙も1~5面が野球で、サッカーは6、7面の扱いですからね。

 今回ユニフォームの袖についていただいたネットワンシステムズの社長さんなんかは、なぜスポンサーになったのかというと、うちの経営方針に感銘したからだと。我々がチームをゼロから作り上げたことに共感して、一緒にやっていこうよと。いわゆる費用対効果ではなく、そういうところで踏み込んでいかなあかんわけです。チーム数も増えて、マーケットも小さくなっています。10年前、九州のチームは大分と福岡、鳥栖だけやった。今では北九州、長崎、熊本、かつて我々の商圏だったところに各チームが張り付いとるわけです。地方はまさにサバイバルですわ。

 それから、例の移籍金がなくなる問題ですね。育成した若い選手が移籍金なしに自由に出て行ってしまう。ヨーロッパスタンダードとはいえ、地方クラブにとっていい潤滑油やった移籍金収入がなくなるのはきつい。

 こんなことを言ったら僭越ですけど、JリーグさんにはFIFAと喧嘩してほしい。日本の作ったローカルルールの意義を主張してもらいたい。そうやってJリーグは繁栄してきたし、うちみたいな地方のクラブでもJ1で優勝争いができたわけです。

 選手のためでもあります。今のような経済情勢でJリーグの予算はそんなに膨らまないですよ。何が起こるかと言ったら、結局、選手の取り合いになって、年俸が高騰する。うちやったら、25人体制どころかA契約の18人だけになってしまって、あとは育成枠。一部の選手だけに給料が集中して、中堅もしくはベテランまで回らなくなる。

 ですから、Jリーグさんにはこの機会にしかるべき主張をしてもらいたい。それでもNOと言われたら、どこかで担保されるようにしてほしい。

 ナビスコ杯で優勝したからといって、うちのような地方クラブの経営状況が厳しいことに変わりはないですよ。うちは社員みんなが営業マンです。チーム発展のために、スポンサーが取れるんやったら裸にもなります。大分FCの社長室のメンバーは全員いつでも脱げますよ。Jリーグのたけし軍団ですね(笑)。それくらい必死やと、生き残りをかけてると。我々がそういうふうにやっとったら、選手たちもファンサービスがんばろうとなるわけやないですか。

 この未曾有の危機、正直しんどいですけど、乗り切ってみせますよ。

溝畑宏

1960年8月7日、京都府生まれ。東京大学卒業後、自治省へ入省。大分県庁に出向し、'94年から大分フットボールクラブの運営に携わる。'03年、J1昇格。昨季はリーグ4位、初タイトルとなるナビスコ杯優勝を果たす

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