競輪はプロ野球選手の理想的な
セカンドキャリアではないか?

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text by Kei Nakamura

photograph by NIKKAN SPORTS

競輪はプロ野球選手の理想的なセカンドキャリアではないか?

 初めて、これはいい、と思った。

 引退したプロ野球選手の再就職先のことだ。

 この時期になると、さまざまなメディアで、志半ばにして戦力外通告を受けたプロ野球選手のその後の物語が特集される。メディアが飛びつくのは、彼らのその後が波瀾に満ちているからだ。

 野球に秀でていた人というのは、若いころから世間の注目を浴び続けてきている。その上、プロ野球の世界の華々しさを知ってしまったら、どんな世界も色あせて見えてしまうものだ。野球から離れてしまったならば、後の人生で彼らが野球をやっていたとき以上の名声や収入を得ることは、おそらく、ない。そんな夢も希望もない生活を何十年も続けていかなければならないのだ。そんな心的要因が一般社会に適応することを困難なものにさせている。

元プロ野球選手は「一般人」ではない。

 もちろん、お金や地位だけが夢や希望でないことはわかる。ただ、それはあくまで一般的な人の感覚だ。誤解を恐れずに言えば、元プロ野球選手は「一般人」ではない。彼らの苦悩は大なり小なり普通の人が知り得ない蜜の味を知ってしまったことにこそある。

 引退後、球団職員や解説者など、野球界に携われるのはごく一部だ。ほとんどの人が一般社会に放り出され、無名の人となる。その際、元プロ野球選手という肩書きは、むしろ足かせになる場合の方が多い。「野球しか知らない」、「プライドが高い」と、雇用者から敬遠されることの方が多いのだ。

 そのときになって野球ばかりしてきたことを後悔しても、後の祭りだ。そこから「一般人」に戻るには、よほどの勇気と忍耐力を要する。

競輪学校は年齢制限を廃し、プロ野球経験者に優遇措置も。

 だが、あったのだ。そんな元プロ野球選手にとって最適と思える再就職先が。

 競輪だ。

 ソフトバンクで5年間プレーし、今年1月、競輪選手としてデビューしたばかりの北野良栄(写真右)が話す。

「わがままな性格なんで、普通のサラリーマンとかは無理だと思った。競輪があって、本当にラッキーでしたね。みんな競輪にくればいいんですよ。サラリーマンよりも稼げるかもしれないし、選手寿命も長い」

 人材不足に悩む競輪界は3年前、競輪学校の入学試験を年1回から2回に増やすと同時に、24歳という受験者の年齢制限も撤廃した。またプロ野球経験者は、引退した年とその翌年に限り、競輪学校の第一次試験を免除されるなどの優遇措置もある。競輪は他の公営ギャンブル、競馬、競艇、モーターバイクのように体重が軽い方が有利だということもないし、特殊なスキルが必要なわけでもない。ひとまず、健康な体と、平均以上の身体能力さえあれば第一歩は踏み出せる。

 競輪選手の平均年収は、一番下のクラスのA級3班でも1千万円前後だ。北野も今年すでに1千万近い賞金を稼ぎ、実質、競輪学校で1年間自転車の訓練をしただけで、プロ野球時代の年収を軽く越えてしまった。

 もちろん誰にでもできることではないが、プロ野球という狭き門を通過しただけの身体能力がある者ならば、かけてみる価値は十分にある。

<次ページに続く>

► 【次ページ】  活躍次第で収入も億を超え、野球より選手寿命が長い。

(更新日:2009年12月1日)

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筆者プロフィール

中村計

中村計

1973年千葉県出身。ノンフィクションライター。某スポーツ紙を経て独立。『Number』(文藝春秋)、『スポルティーバ』(集英社)などで執筆。『甲子園が割れた日 松井秀喜の5連続敬遠の真実』(新潮社)で第18回(2007年度)ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。他に『佐賀北の夏』(ヴィレッジブックス)、共著に『早実vs.駒大苫小牧』(朝日新書)などがある。『雪合戦マガジン』の編集長も務める。趣味は、落語鑑賞と、バイクと、競艇。


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