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類まれなる才能だからこそ壁も多い。
久保建英に思い出すジーコの言葉。
photograph by
Getty Images
スターシステムにジーコが鳴らした警鐘。
59分からは4バックへとシステムを変更した日本が、攻撃に圧をかけようとするエルサルバドルの裏を突く展開となり「せっかく試合に出れたので自分の特長は最大限に出せたら」と意気込んだ久保にとり、望ましい状況となった。
会場を沸かせた久保のプレーが生まれたのは、彼自身の積極性や能力の高さは言うまでもないが、それを発揮できる試合の流れの良さも関係していることを忘れてはいけない。試合開始から汗をかき奮闘した選手たちがいたからこそ、できたプレーもあるはずだ。
この日の試合は、終わってみれば文字通り久保建英一色となった。無事にデビューを飾り、その力を発揮した新人日本代表選手に安堵感のような空気が流れてもいた。そのなかでふと、鹿島アントラーズのテクニカルディレクターを務めるジーコの言葉を思い出す。
「これはメディアの問題でもあるが、得点王やMVPといった個人に注目が集まりすぎるのはよくない。注目すべきはいくつタイトル獲得に貢献したかだ。サッカーは団体スポーツなのだから、選手全員で戦わなければならない。
すごく能力の高い選手がいても、結果が出ないクラブは世界中にいくつもある。『自分のゴールでタイトルをもたらしたい』、『得点王になりたい。MVPになりたい』というような気持ちすらエゴとなり、そういう選手が出始めるとチームがおかしくなる」
いわゆるスターシステムの警鐘を鳴らすジーコの言葉は、日本に限らず、世界のサッカー界を憂うメッセージだ。このシステムは選手とは無関係のところで生まれる「空気」だが、それが選手のエゴを引き出し、チームを狂わせる。
エースが背負う巨大な十字架。
しかし、どのチームにもエースの十字架を背負う選手は存在する。彼らは勝利を決める仕事で称賛を集める一方で、勝てなければそれと同じかそれ以上の非難をぶつけられることになる。あのメッシですら、アルゼンチン代表で結果が伴わない時期には叩かれていた。
それでも、結果を出すことでそのプレッシャーを跳ね返すしかない。そして、その仕事は決して1人でできるものではない。ゴールネットを揺らすシュートは1人の選手が放つが、その好機を作るのはチームメイトだし、勝利のために失点を防ぐのもまたチームメイトなのだから。それでも、勝敗の根源としてエースは持ち上げられてしまう。
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