マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
広島・加藤拓也の初登板は酷だった。
一軍打者に、振ってもらえない辛さ。
posted2017/02/13 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
時刻は午後3時をとっくにまわっていた。
日南・天福球場では、1時から続いていたフリーバッティングがようやく終わって、ホームベース付近で「ロングティー」が始まっている。
このチームは、まあ、よく練習する。
ほかのチームなら、帰り支度が始まる時分である。まだやるの? と、つい愚問を発したら、切り込み隊長・田中広輔から、陽に焼けた笑顔でウインクが返ってきた。
「そうですよ、ウチはこれからなんで」
“やらされている感”がまるでない。
野球の大好きな野球小僧たちが、何時になってもワーワー、ギャーギャー、歓声をあげながらバットを振り、ボールを打っている。雰囲気は、子供たちの草野球だ。
夢中になって大好きな野球とからみ合って、いつの間にか強く、上手くなっていく。チームメイトたちが、本当の“仲間”になっている。
菊池涼介の「腹、立つな……」とめちゃ振り。
ロングティー。
スタッフがボールを上げて、それを選手たちが渾身のフルスイングで外野へ飛ばす。
松山竜平が右翼99メートルのフェンスへダイレクトでライナーを当てると、今度は鈴木誠也のライナーがそのフェンスを軽々と越えて、さらに、189センチ115キロ、ドミニカからの育成選手・バティスタの大放物線が、その向こうにある室内練習場にかかっているシートの真ん中あたりを直撃して、昨年のカープV戦士たちがその雄大な軌道をあきれたように見送っている。
「腹、立つな……」
とんがったプレーの菊地涼介の、搾り出すようなつぶやき。
ぎりぎり、まわりに聞こえるように言っている。
驚き、怒り、闘志、敬意、少しの嫉妬と、そして少しのあきらめ。
いろんな思いがごちゃ混ぜになって、それでも次の番で、本気で140メートル向こうのシート直撃を狙った渾身の“めちゃ振り”が、この闘魂のセカンドの輝きに見えていた。