炎の一筆入魂BACK NUMBER
鈴木誠也は日本一の選手になれる。
前田智徳とも通ずる深い求道精神。
posted2016/06/09 14:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kiichi Matsumoto
一時の勢いからやや下降気味の広島打線で、1人流れに逆らうように調子を上げている選手がいる。
春季キャンプ中に右太もも裏痛のため開幕を二軍で迎えた、鈴木誠也。出遅れを取り戻すアピールを続け、競争激しい広島外野陣の一角を手中に収めようとする勢いだ。
入団時から、高い潜在能力は高い評価を受けていた。高卒1年目に一軍昇格。2年目には36試合で打率3割4分4厘をマークした。「開幕1番」を任された昨季は、自己最多97試合に出場し、打率2割7分5厘、5本塁打、25打点。着実に階段を上がり、今季は主力としての第一歩として刻むシーズンと位置づけられる。
だが、広島打線が猛打を奮ったシーズン序盤、鈴木は1人もがいていた。
この21歳は、普通の成績だと納得されない!?
春季キャンプで成長を示し、実戦でも結果を残していた2月。22日に行われた起亜(韓国)戦で右太もも裏を痛め、離脱を余儀なくされた。動きが制限される日々を過ごし、シーズン開幕日に実戦復帰。1週間ほどで一軍に昇格して一定の結果を残したものの、本人の中には感覚にズレがあった。
捉えたと思った打球がゴロとなり、フライとなった。離脱している間に結果を残した選手がチャンスをつかみ、開幕前、打撃のキーマンに挙げられた鈴木も競争の中に身を置いた。結果を残しても、次戦は先発から外れることもあった。打線に打率3割の選手が並ぶ中、5月中旬まで鈴木の打率は2割5分を行ったり来たり……。打席へ向かう際に目に入る、電光掲示板の自分の成績が「情けなかった」。
能力の高さは誰もが認める。
緒方孝市監督は「いずれトリプルスリーを達成できる」とその才能に惚れている。他球団の関係者が絶賛する声もしばしば耳にする。広島の春季キャンプを視察した小久保裕紀日本代表監督も「代表も右の外野手は手薄。僕以外のスタッフも注目している」と興味を示した。
まだ21歳。
一軍最年少野手にもかかわらず、もう“一定の結果”では周囲を納得させられない。