One story of the fieldBACK NUMBER
ルーキーの“危ないネタ”に笑う、
金本新監督の豪快なムードづくり。
posted2015/12/18 10:40
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Kyodo News
おそらく球団内で語り継がれる会見だ。
12月7日、阪神の新人6選手が入団発表を行なった。厳かな雰囲気の中、例年通りの進行で新人選手への質問へと入った。そして、ドラフト3位で入団した竹安大知が口を開いた。
背番号42への印象は?
「阪神では下柳さんの印象です。長くプレーをされた選手で目標でもあります。非常にいい番号をいただいたなと思います」
模範解答に続き、仰天発言が飛び出した。
「担当スカウトは田中秀太さんなんですけど『グラブは投げるものじゃない、大切にしろ』と言われたので。教えを守ります!」
しばしの静寂……。
直後、会場は大きな笑いに包まれた。21歳の若者が背番号の偉大なる先輩・下柳剛氏の「グラブたたきつけ事件」を引き合いに、まんまと笑いを取ったのだ。
会場の隅でほくそ笑む田中スカウト。
プロ野球ファンなら知らない人はいないかもしれない。
2007年10月1日の横浜戦(横浜)。阪神先発下柳は5回1死一塁、二ゴロの際、二塁ベースカバーに入った遊撃・秀太の足が離れ、セーフになると怒りをあらわに。続く打球も秀太がはじき、1死満塁となるとグラブを地面にたたきつけた。さらに次打者の打球はまたも秀太へ。慎重に捕球したため併殺がとれず1失点。下柳は再びグラブをたたきつけた。
凍りついた秀太の表情とともに、語り継がれている事件である。
場面を入団発表に戻す。竹安の爆笑発言の中、会場の隅でにやりとしていた人がいた。
田中秀太スカウト。下柳氏の怒りの矛先となった張本人だ。晴れの舞台に備え、自身の担当選手に“仕込み”をしておいたというわけだ。
ただ、それにしてもである。いくら新人とはいえ、緊迫した入団発表の場、球団社長も監督もいる前で大先輩をネタに笑いを取ろうという企てはリスクもあるはずだ。
じつは竹安の発言を聞いた瞬間、記者もドキッとした。「笑い」と「場違い」は紙一重。おそらく、会場にいた多くの人もそうだったに違いない。だから、一瞬の静寂があった。
これ、大丈夫なのか?
それが笑いになったのはなぜか。