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2012年ドラフト会議を徹底検証。
阪神の上手い指名を初めて見た!
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byKyodo News
posted2012/10/26 12:10
ドラフト1位指名の抽選で12連敗中だった阪神。「これは藤浪君の運ですね。甲子園のマウンドが似合う。チームは低迷しているが、新しいチームを作っていく、その一員になってほしい」とコメントした和田監督。
2012年のドラフトは見どころがたくさんあった。
◇昨年強烈に巨人志望を打ち出し、日本ハムの1位指名を拒否した菅野智之(投手・東海大在学)に複数球団の入札があるのか。
◇甲子園大会の春・夏優勝投手の藤浪晋太郎(投手・大阪桐蔭)の指名で、何球団の1位入札が競合するのか。
◇メジャーリーグ入りを表明した大谷翔平(投手・花巻東)に入札する球団はあるのか。
まず、菅野は単独指名になった。翌日のスポーツ紙は「巨人愛」「おじさん」という言葉が紙面を飾り、ヒューマニズムの押し売りのような様相を呈しているが、菅野個人の心情に思いを致せば、1年間御苦労さまと言いたい。長く試合から遠ざかっているので、紅白戦、オープン戦のみならず、実戦形式のシートバッティングにも数多く登板して実戦の感覚を取り戻してもらいたい。
藤浪にはオリックス、阪神、ロッテ、ヤクルト、4球団の1位入札が競合した。もう1球団、西武あたりがこれに加わるのかなと思っていたが、順当な数の入札に落ち着いた。藤浪には迷う要素が少ない。たとえば、「日本かアメリカか、投手か打者か」迷う要素を2つ抱える大谷にくらべ、藤浪は「指名された球団で投手としてやる」と決めている。つまり、野球に向かう姿勢がシンプルである。これが藤浪の強みだと思う。
甲子園のヒーローがずっと入団していなかった阪神タイガース。
阪神は実に不思議なのだが、これまで高校野球の大舞台、甲子園大会のヒーローをあまり獲得してこなかった。小山正明、村山実、江夏豊ら歴代の名投手、さらに吉田義男、田淵幸一、現役の鳥谷敬……等々、甲子園のヒーローとは呼びにくい選手が並ぶ。
時代をずっとさかのぼってようやく戦前の藤村富美男、昭和40年代の藤田平と名前が出てくる程度である。とにかく徹底して甲子園のヒーローとは縁が無かった。
それが1位藤浪、2位北條史也(遊撃手・光星学院)と一挙に2人の甲子園のヒーローを指名してしまったのだ。今シーズン5位に沈んだ、再生に向けた阪神の強烈なメッセージだと私は思う。
採点するなら今年のドラフトで最もいい指名をしたのは阪神である。
文句のつけどころのない阪神の指名を見たのは初めて!
1位藤浪、2位北條だけではなく、3位田面巧二郎(投手・JFE東日本)、4位小豆畑眞也(捕手・西濃運輸)、5位金田和之(投手・大阪学院大)、6位緒方凌介(外野手・東洋大)に至るまでリリーフ投手、捕手という阪神の弱点に目配りがされている。こういう文句のつけどころのない阪神の指名を見たのは初めてである。
非常に個人的な話をさせてもらうと、ドラフト後、facebookの友達申請が大幅に増え、ブログやホームページへのアクセス数も跳ね上がった。申請してきた相手の何人かのプロフィールを覗いてみると、どうやらその多くは阪神ファンであることが分かった。今年のドラフトに阪神復活の光明を見出した阪神ファン、あるいはシンパシーを持った野球ファンが多く反応してくれたのだと思っている。