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<特別な開幕戦> イチロー「12年目の想い」 ~ある驚くべき変化とは?~ 

text by

石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

PROFILE

photograph byNaoya Sanuki

posted2012/04/09 06:01

メジャー生活12年目にして初めて迎えた日本での開幕戦。
「まさに特別な日」に、5打数4安打1打点の大活躍で
チームの勝利に貢献した彼の想いは、言葉よりも雄弁な
プレーと仕草、そしてある“衝撃的な変化”に現れていた。

 とうとう最後まで、直に肉声を届けることはなかった。イチローは、開幕前の記者会見も、練習後のテレビカメラによる取材も、開幕戦が終わったあとのヒーローインタビューも一切、受けることはなかった。彼は日本のファンの前で、一言も言葉を発していない。

 にもかかわらず、いったいなぜ彼の想いはこれほどまでにファンのもとへ届いたという実感があるのだろう。日本でのイチローのプレーは、じつに雄弁だった。

 喝采の中、打席に立つ。

 バットを高々と掲げる。

 360度からのフラッシュを浴びる。

 彼の立ち居振る舞い、そのすべてがメッセージだった。日本人は、イチローのプレーを見て、そのメッセージを感じ取ろうとした。

 開幕戦に勝った瞬間、イチローはグラブをポンと叩き、ライトスタンドを指差した。それは、シアトルでは見た覚えのない仕草だった。試合後、『シアトルではなかなかないと思うけど……』と問いかけた瞬間、イチローは、なかなか、という言葉に反応して、すかさずこう言った。

「なかなかじゃない、絶対、ないでしょ」

勇気を与えるとか、感動を与えるとか……それは目的にはできない。

 そう、アメリカでは絶対にしないことを、日本でのイチローはしたのだ。さらに、その心を訊ねると、イチローはこう言った。

「もう一生で2試合しかないと思ってますから……ここで、こういう形で(試合を)やることは、この2試合しかない。それが過ぎたときには、間違いなく、あっという間だったというものになるので、その瞬間を刻みたいという想いだったし、ここに足を運んでくれた人もおそらくそうだったと思います。それを共有したかったということです」

 言葉で伝えない方がいいこともある。想いを言葉に変換する桁外れの能力を持つイチローが、それでもわかりやすく表現することをためらうほどの、複雑な想いを抱いた。

 だからこそ、安易に言葉を発しなかったのだろう。MLBが今年、開幕戦を日本で開催することにしたのは、去年の東日本大震災と無関係ではあり得ない。この開幕シリーズ、MLBは復興支援を大々的に打ち出していた。しかし、イチローはそうした方向性とは別のところを向いている。

「人の心を動かすとか、勇気を与えるとか、感動を与えるとか、よくあるフレーズですけど、無理なんです。それは、目的にはできない。目的となったら、そんなの与えられるわけがない。なるとしたら結果的にそうなるだけです。それが目的となっている人は、その目的は絶対に達成できない。だから僕はそんな想いは持てないんです」

 つまり、こういうことだ。

 イチローのプレーが復興支援に結びつくかどうかは、被災地の人々がどう感じるかによって決まる。イチローがそれを決めるわけではない。だから、彼はいつでもどこでも、いつもと同じようにプレーする。

<次ページへ続く>

【次ページ】 「一生に一回あるかどうかのイベントを大事にしたい」

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