Jリーグ観察記BACK NUMBER
Jリーグが進歩するために学ぶべき、
世界最高のコンディショニング理論。
~【第2回】 PTPの2つの基本認識~
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byJ-Dream
posted2012/01/02 08:01
ヒディンクの右腕として、2002年韓国代表の肉体改造に取り組んだレイモンド・フェルハイエン。今回、サッカーを通じたオランダと日本の国際交流に努める『J-Dream』主催で行なわれたセミナーの講師として来日。来年も今回同様のイントロダクションセミナーと、今回の参加者を対象としたアドバンスセミナーを開催予定だという
どの分野においても優れた理論というのは、“シンプルさ”という美しさを持つだろう。名将ヒディンクが惚れ込むコンディショニング・コーチ、レイモンド・フェルハイエンの理論もコンセプトがとても明快だ。
従来のコンディショニング理論というと、「有酸素運動」、「無酸素運動」、「乳酸値」、「VO2max(最大酸素摂取量)」といった専門用語が次々に登場し、取っ付きづらい印象がある。だが、レイモンドは一切そういう専門用語を排除し、サッカーの言葉に置き換えて説明することにこだわっている。指導者や選手にとって理解しやすいだけでなく、サッカーに必要なフィジカル能力を分析するうえで理にかなっているからだ。
キーワードは、「爆発力」と「アクションの頻度」。
レイモンドは理論を構築する際、サッカーの試合を徹底的に分析し、必要とされるパフォーマンスを次の2点に絞った。
「爆発力」と「アクションの頻度」だ。
たとえば試合で守備をするとき、一口にプレスをかけると言っても、猛烈な勢いで相手に詰め寄るのと、緩慢な動きで近づくのでは、まったく効果が違う。守備から攻撃への切り替えでも、一気に前線に飛び出すのと、反応が遅れるのとでは、得点の可能性が大きく変わってくる。こういう瞬間的なパフォーマンスを、レイモンドは「爆発力」と呼んでいる。
ここで爆発力が大きいアクションをX、爆発力が小さいアクションをxで表すことにする。メッシのドリブルが特大のXで、標準的なアマチュア選手のダッシュが小文字のxと言えばわかりやすいだろうか。選手の体力には限りがあるので、90分の中で X...X...X...x...x...x... とだんだん爆発力が下がっていくのが普通だ。
一方、「アクションの頻度」とは、パス、ドリブル、プレス、パスカット、攻守の切り替えといったアクションを、試合の中でどれだけたくさんできるかということだ。何か激しいアクションをしたあとに、回復に30秒かかる選手もいれば、15秒で大丈夫な選手もいる。「アクションの頻度」が多いほど、そのチームはハイテンポなサッカーができることになる。
これは言い換えると、瞬間的な「回復力」が高いほどいいということだ。回復が速ければ、すぐに次のアクションを行うことができ、アクションの頻度が増す。
この目指すべき2つの向上を絵で表すと、次のようになる。
x → X (爆発力の向上)
X.........X → X...X...X...X (アクションの頻度の向上)
ただし、いくら質の高い動きをしても、それが15分しか続かなかったら、とても試合に勝つことはできない。「爆発力」と「アクションの頻度」をそれぞれが90分間持続することが求められる。
このふたつのパフォーマンス(「爆発力」と「アクションの頻度」)において、それぞれの「向上」と「持続」を目指すという4つのポイントが、レイモンド理論の発想のベースになる。