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須藤元気 「策士は変幻自在を愉しむ」 

text by

布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

PROFILE

posted2004/07/01 00:00

SPECIAL FEATURES

 

[異色格闘家はなぜ強いのか]須藤元気「策士は変幻自在を愉しむ」

 

 

布施鋼治=文

text by Koji Fuse

 

 レフェリーが試合を止めた直後、厳かなムードがリング上を包み込んだ。これが本当にバーリトゥードの舞台なのか。ゆっくりと立ち上がった勝者は、失神してピクリとも動かない敗者の足元で合掌する。その佇まいには、直前まで殺気すら漂わせながら激しいパウンドを9発も打ち込んだ男と同一人物とは思えないほどの慈悲深さを感じた。

 5月22日、さいたまスーパーアリーナで行われたK― 1ROMANEX。記念すべきK― 1初の総合格闘技の単独イベントで一番大きなインパクトを残したのは、ボブ・サップ(チーム・ビースト)を下した藤田和之(猪木事務所)でも、アレクセイ・イグナショフ(ベラルーシ共和国)に雪辱を果たした中邑真輔(新日本プロレス)でもなかった。過去一度もKO負けを喫したことのないホイラー・グレイシー(ブラジル)に生涯初の屈辱を味わわせた中量級の須藤元気(ビバリーヒルズ柔術クラブ)だった。

「闘いなんて儚いものですよ」

 試合前、須藤が意味深に呟いていた台詞が合掌する姿と見事なまでに重なり合った。

「ホイラー・グレイシーとやる」

 思い描いた目標を聖書サイズのFILOFAX製の手帳にハッキリと書く。そんな習慣を須藤元気は、'98年のアメリカ留学時代からずっと続けている。冒頭の目標は当時記したものだ。

「まず書くという行為から始める。手帳は常に持ち歩いているから、目標を忘れることはない。極端な話、書いた内容を覚えていなくてもいい。その手帳を携帯することで、潜在意識として気づいているわけですから」

 ほかには「東京ドームで闘う」という目標も掲げていた。目標は着実に達成された。'00年5月に東京ドームでアンドレ・ペデネイラス(ブラジル)と闘っている。目標をハッキリと紙に記せば、夢は叶う。須藤はそう言ってはばからない。

「プロセスより先にゴールを決める。そうすると、プロセスがすごく楽になる。どの道が一番短いのかが読めますからね。ゴールさえしっかりしていれば、挫折やつまずきは乗り越えられるものですよ」

 アメリカ・ロサンゼルスにあるビバリーヒルズ柔術クラブで柔術を約1年間修行したのち、逆輸入ファイターとして日本でプロデビューというストーリーですら、須藤にとっては逆算された序章に過ぎなかった。

「普通に日本の団体に入って普通にチャンコ番をやったり、練習生からデビューするという過程って最短距離ではないと思ったんです。それに僕の場合、体も小さいから一発めからドーンといく必要があると思ったので、どうしても逆輸入という形にこだわりたかった」

 その青写真はアマチュアレスラーとして活躍していた高2の時に決まっていた。須藤が中3の時に始まったUFCに影響を受け、自分でもやってみたいと思ったのだ。若者は、まず形から入る。須藤とてその例外ではなく、金網の中に入って闘うという戦慄のビジュアルに興味を抱いた。

「完全にコンプレックスの裏返し。もともと僕は精神的に強い人間になりたくてレスリングを始めたけど、UFCくらいの究極の闘いができないと、そういう人にはなれない。そう思い込んでしまったんですよ」

 UFCの試合映像を目の当たりにすると、近い将来、格闘技の大きなムーブメントが来るような気がしてならなかった。ただ、当時は須藤と同程度の体格の総合格闘家がそれほどいたわけではない。

「だから格闘家になりたいという話を周囲にしても、誰も理解してくれなかったでしょう(笑)。プロといえば、まだ無差別級という時代でしたからね。でも自分の中では中量級でも活躍できる時代が来るという予感はあったんですよ。結果的にそれが実現したことを踏まえると、自分の意志の強さだけではなく、運の強さもあったと思いますね」

 髪形はドレッドで、背中にはインカ帝国のナスカの地上絵をモチーフにした大きなタトゥー。そして天狗のお面やガスマスクなどをかぶっての入場シーン。それだけでも須藤がプロデビューした'99年頃は、十分すぎるほど目立った。タトゥーこそ珍しくない時代になったが、未だ入場シーンのノリの良さは須藤の独壇場だ。

「人によって好き嫌いがあるだろうけど、入場パフォーマンスは試合のためのアップですよ。ああすることでメンタル的には、すごくいい方向に持っていける。そのせいで疲れることもあるけど(苦笑)、昔やっていたドレッドヘアやタトゥーを含め、すべてのパフォーマンスは自分にとって必要な華ですよ。プロフェッショナルである以上、ファイターであるとともにエンターテイナーとしての役割もこなさなければならない」

 そう明言するだけあって闘い方もトリッキーで独創的だ。対戦相手に背中を向けながら、リング上をグルグル回るフットワークなど朝飯前。お互いガードを固めながら、ジャブやローを打ち合う。そういった従来の総合格闘技のセオリーに須藤は自分を当てはめることができない。真剣勝負の舞台で当たり前のようにジャイアントスイングを使い、そのまま極め技を狙えるのは須藤しかいない。

(以下、Number605号へ)

■関連コラム► 須藤と五味にみる格闘技界の未来。 (05/10/05)

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