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JFKが生まれた場所。ジェフ・ウィリアムス/藤川球児/久保田智之 

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永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

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posted2005/10/13 00:00

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[ブルペンの真実]JFKが生まれた場所。ジェフ・ウィリアムス/藤川球児/久保田智之

永谷脩=文

text by Osamu Nagatani

 甲子園の一塁側スタンドの隣に位置する、阪神タイガースのブルペンが慌しく動き始めるのは、ゲームが5回を過ぎた頃からだ。ゲームの流れによって、準備する投手は違う。勝ちゲームとなると、阪神の中継ぎ・抑えトリオ、“JFK”の出番である。ジェフ・ウィリアムスの “J”、藤川球児の“F”、久保田智之の“K”、それぞれの頭文字を取ってその名が付けられている。

 「UFJ銀行という名前がありますよね。それをもじって勝ち星が貯まるようにと名づけられたと思いますが、いつ頃からかは定かではありません。多分、マスコミがつけたんでしょうが……」

 阪神の球団関係者のひとりはニックネームの由来についてそう言う。

 逆に負けそうな試合展開になると、この3人に代わって江草仁貴、橋本健太郎、桟原将司が忙しくなる。こちらはイニングに関係なく、いつでも呼び出しに応じられるよう、肩を準備する。その間もベンチからブルペンには、電話連絡がひっきりなしに入ってくる。

 ベンチの監督の意向をブルペンに伝えるのは今季から投手コーチに就任した久保康生。大阪近鉄バファローズの球団消滅により、旧知の岡田彰布監督の下にやってきた。現役時代は、阪神・近鉄を通じて中継ぎを経験することが多かった理論派である。

 その久保のメッセージを受け取るのは、もう一人の投手コーチ中西清起。かつて甲子園を“球道くん”の名で沸かせた男は、抑え役として― '85年の阪神の優勝に貢献した。熱血漢と評されるが、自らの経験に基づいた野球理論には、卓越したものがあると言われている。

 今シーズン横浜ベイスターズの監督に就任した牛島和彦は、ブルペン担当コーチに吉田篤史を呼び寄せ、「中継ぎ・抑えを経験していた方がいい」と、その理由を説明した。

 監督の仕事の最大のポイントが継投だとすると、投手コーチの最大のポイントは、その継投の体制をいかに準備するかにかかってくる。そうなると、先発しか経験していない投手コーチよりは、中継ぎ・抑えの経験者の方が、阿吽の呼吸で分かりあえるということになるのではないだろうか。

 昨年まで阪神のコーチを務めた佐藤義則(現日ハム二軍投手コーチ)は40歳まで先発投手として活躍した。佐藤に代わって久保が入ったことで、ベンチとブルペンとの呼吸がぴったりと合ってきた。比較的年齢の離れた佐藤よりも、年齢的にも近く、しかも実績の劣る久保の方が、中西にとっても気分的に話しやすいことは確かだ。その結果、ベンチとブルペンとが密となり、今シーズン、継投の準備はよりスムーズになってきていた。

 今季、自己最多の13勝(9月27日現在。以下同)を上げ、37歳にして最多勝争いに加わった下柳剛は、自分の勝ち星について「完投を目指して9回投げきることを考えるのと、とにかく6回までの責任をきちんと果たせばいいと考えられるのでは、気持ちの上で大きな差になる」と言う。自分の後ろに構えている “JFK”の存在感と信頼感が、自らの勝ち星につながっていると感じているのだろう。

 「近代野球は7回以降というけれど、今年ほどそれを感じた年はないわ」と阪神OBの池田親興は話す。彼もまた、'85年の優勝メンバーのひとりである。その年、工藤一彦、福間納・中西の中継ぎ・抑えの恩恵を受けた池田だからこそ、“JFK”が今年の阪神で果たしている役割がわかっているのだ。

 久保は、「ベンチとブルペンとの連係のよさが選手にも伝わり、今の結果を生んでいる」と指摘する。

 「連日マウンドに立つ中継ぎや抑えにとっては、いかに無駄な労力を使わないかが大切になってくる。中西がその点をしっかりとやってくれています。彼は頭がいいから、そういうところを計算できるんです」

とにかく3人を、気持ちよく送り出すこと。

 阪神のブルペンは、ブルペン担当の中西、吉田康夫の両コーチと4人のブルペン捕手、それに中継ぎ、抑え・敗戦処理の8人の控え投手たちが試合の状況を見ながらそれぞれ準備を進める。ベンチを担当する久保が監督の指示を的確にブルペンに伝え、ブルペンの中西がそれを聞いて、実際に選手に準備をさせるという役割分担だ。中西は、「気持ちよく選手に準備させ、気持ちよくマウンドに送り出す」ということを一番に心がけている。今季、中西はブルペンのメンバー全員に、「気分良く投手にマウンドに行ってもらうために、全員で拍手をして送り出そう」と提案した。開幕以来この儀式はずっと続いている。中西自身の経験が、そこには脈々と生きていた。

 「抑えをやっていたから、どうしたら気分よくマウンドに行けるかはわかっているつもりです。自分なりの5カ条というものを考えながら、投手それぞれの性格と照らし合わせて送り出しています。ウチの場合は、ウィリアムスと藤川の入れ替えがあったとはいえ、パターンが決まっていて、わかりやすいですし、やりやすかった」

 ブルペン捕手の片山大樹は、吉田に、シーズン前にこんなことを言われていた。

 「無駄な球数を投げさせないためにも、いい音をさせる捕球を考えてくれ。特に、マウンドに行く前の最後の一球は……」

 今年の阪神のブルペンでは、いかに投手を気持ちよくマウンドへ送り出すかを、ブルペン全員が考えていたということになる。

 岡田采配のひとつの特徴は、判で押したように当たり前のことを当たり前にやるところにある。つまり、パターン化だ。そのため、どうしても中継ぎ・抑えは登板回数が増す。ウィリアムスは71試合、藤川にいたっては9月28日に78試合登板となり、稲尾和久、菊地原毅の持つシーズン最多登板記録に並んだ。それに加えて、抑えの久保田も65試合に登板、阪神の勝ち星82勝のほとんどに彼らが投げている計算になる。それだけに、彼らからいかに無駄を省いて、楽させるかが、大切になる。中西の言う「5カ条」だ。

(以下、Number638号へ)

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