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<ベルマーレの試練と再挑戦> “湘南の暴れん坊”が生きる道。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byToshiya Kondo
posted2011/03/02 06:01
フジタの撤退でかつてと練習場は変わったが、河川敷でのトレーニング風景は昔も今も同じ
今季はまたもJ2での戦いを余儀なくされる湘南。
Number770号(1月13日発売)では、再び長き停滞に陥らないために
再生と飛躍を目指すチームの取り組みを詳細にレポート。
2011年のJ2開幕を前に、Number Webで全文を特別公開します。
晩秋から初冬へ向かい始めた空気が、頬や手を突き刺す。選手たちの吐く息が白い綿のようになり、グラウンドのあちこちに漂った。
寒さは平年並みである。それなのに、吹きつける風は冷たく感じられ、どんよりとした重さに身がすくむ。過ぎ去った三つの季節は、湘南ベルマーレを取り巻く環境を昨年とまったく違うものに変えている。
「力を、出す前に、終わっちゃったな」
艶を失ったかすれ声を、反町康治監督は何度も咳払いをしながら絞り出した。この日行なわれた2010年最後の練習は、大学生との練習試合だった。グラウンドを見下す土手に座っていた反町は、声を荒らげたりしていない。シーズン中は決して体調を崩さないが、全日程を終えた途端に風邪の症状に襲われる。現役時代からいつもそうなのだ、という。
「J1昇格を決めた'09年のシーズン後に、どうして監督は喜ばないんですかと何度も聞かれた。俺はJ1でやったことがある。J2と何が違うかを知っている。湘南はJ1では18番目から、最下位からのスタートなのに、喜んでいられるはずがなかった」
2010年は、開幕前にケガ人続出という誤算で始まった。
'10年シーズンのチーム予算は、約13.5億円で編成された。前年度からおよそ3億円増だが、'09年度のJ1平均は33.1億円だ。選手やスタッフの人件費だけで、湘南の総予算を上回るクラブも少なくなかった。日本代表や他チームの主力はもちろん、中堅クラスの獲得さえ予算という障壁が立ちはだかる。下部組織からの昇格と高校、大学からの新入団を除いた補強は、片手で間に合う人数だった。
「シーズン前の準備には二つの側面がある。ひとつは選手を揃えること。補強については経済的な理由もあるから、他クラブと競合して取れない選手もいた。それはもう最初から分かっていたことだし、やみくもに選手を獲って違うチームにする必要もないと考えていた。もうひとつは、心身ともに開幕を迎える状態へ持っていくことだった」
誤算はふたつ目の準備にあった。シーズン前のキャンプから、ケガ人が続出したのだ。手術をした選手は13人にも及ぶ。センターラインを司るGK野澤洋輔、CBジャーン、ボランチ田村雄三の3人が揃って出場したのは、わずかに5試合である。シーズン途中の復帰が予定されたブラジル人MFアジエルは、ケガが回復せずに7月に登録を抹消されてしまった。最終ラインの左右両サイドを託されていた新加入の松尾直人は、一度もピッチに立てなかった。